アスリートメッセージ
14cm。
この長さを人はどう感じるのだろうか。一見すると短い距離に思える。しかし走幅跳の池田久美子選手にとっては果てしもなく遠いようでもあり、また手に届きそうな距離でもあるのだ。
「14cmって、私の手の付け根から小指の先ぐらいの長さなんですよね。そうやって考えるとすごく短いような気もします」と池田選手は言う。
(写真提供:アフロスポーツ)
(写真提供:アフロスポーツ)
14cmというのは池田選手が目標にする7mまでの長さ。世界でメダルに届く基準は7mであり、彼女が日本選手権で出した日本新記録6m86でもまだ14cm足りないのだ。
だが、彼女は確かに手ごたえを感じている。昨年の第15回アジア競技大会(2006/ドーハ)で6m81を記録し、日本人選手として36年ぶりに女子走幅跳で金メダルを獲得した。
「8月に行われる第11回IAAF世界陸上競技選手権大阪大会に向けて、自信がつきました。ただ6m90台を跳びたかったので、記録には少し不満が残りました」
池田選手は小さい頃から走幅跳の選手として注目の的だった。小学6年生で5m18と年齢別日本最高を、中学1年生で5m97を跳び、全日本中学選手権で3連覇という快挙を達成。周囲は彼女を「天才少女」と呼び、早くもオリンピック出場の期待がかけられていた。
「(天才少女と言われて)その時は嬉しかったですね。いろんな人が私を見てくれるんだって思って。成績がよかったからなおさらでした」
そんな彼女にも高校1年生の時、スランプが襲う。
「アトランタオリンピックがあったんですが、それに出て当然と言われていました。自分でもそう思ったんですが、5m70しか跳べず、出場できませんでした。それまで順調に記録を毎年更新してきたからショックでした。そのストレスから毎日、お菓子をたくさん食べるようになり、気がつけば体重が12kgも増えていました。練習には毎日行っていましたが、天才少女という言葉が嫌で陸上を辞めたいと思っていたんです」
調子が上がらない娘を支えたのが父・実さんだ。元走り幅跳の選手だった実さんは池田選手に走幅跳とハードルを教え、コーチとして中学まで彼女の指導にあたってきた。
「父は『自信を取り戻せば大丈夫』と言って、励ましてくれました。でも自信がないときに自信を持つというのは難しいこと。しばらくは悩みましたが、大学2年生で自己ベストを更新した時にその言葉は身にしみました。この時、自信が持て、自分が変わったような気がしました」