アスリートメッセージ
すべての競技に先駆けて、今夏、ソフトボールでは北京オリンピックの代表国の一部が決定する。4年に1度行われる世界選手権が8月27日より北京で開催され、ベスト4(北京オリンピック開催国の中国を除く)に入った国に出場権が与えられるのだ。すでに予選グループの組み分けも発表され、日本は初の金メダル獲得に向けて2004年12月から新体制の日本代表チームが始動。強化合宿、遠征を重ねて、現在に至っている。
世界選手権では1998年に日本で行われた大会で、日本は宇津木妙子監督のもと銅メダルを獲得。続く2002年のカナダでの大会では、同監督率いるチームで銀メダルを勝ち取った。アテネオリンピック後は、井川英福氏がヘッドコーチに就任。トライアウト、選考合宿などでチームメンバーを入れ替えながら、2004年12月のアジア選手権優勝、2005年夏にはアウェーのU.S.カップでアメリカを破って初優勝。同年のジャパンカップでもアメリカ、オーストラリア、中国に全勝して優勝するなど、手応えのある強化が進められている。
ソフトボール強豪国といわれるアメリカ、オーストラリア、中国、日本の4強に加え、近年は台湾、カナダ、イタリアらが着実に力をつけ、指導者の国際交流が進んでいることもあり、4強であっても確実に勝ちあがることは容易ではなくなってきている。絶対的な強さで世界のトップに君臨してきたアメリカは、世界選手権、オリンピックで連覇し続けているが、シドニーオリンピック以降は日本が投手力、打撃力を伸ばして肉薄。日本は足の速さを生かした攻撃、走塁、緻密な守備、つなぐバッテイングなど、日本らしい技術をより磨き、高いレベルで安定させることで、念願の「ソフトボール世界一」を狙っている。
アテネオリンピック後に、ベテラン選手がそろって第一線を退いたこともあり、チームは若返りを図ることとなった。メンバーからの信頼が厚い伊藤幸子主将を中心に、オリンピック経験のある高山樹里選手、内藤恵美選手、増淵まり子選手らがチームをしっかりと支え、アテネオリンピックで活躍した22歳の山田恵里選手、23歳の上野由岐子選手が攻守の要となって、チームを勝利へと導いていく。
日本が世界一になるためには、あと何が今のチームに必要なのか。アテネオリンピックでは金メダルを期待されつつ、なぜ勝つことができなかったのか。山田選手、上野選手に聞いてみた。
走攻守の3拍子がそろい、ソフトボール界のイチローと呼ばれる山田選手は、初めて出場したアテネオリンピックで打率は世界2位。銅メダル以上を確定させた決勝トーナメントの中国戦では、守備位置のセンターからビーム砲のようなホームへのストライク返球で、延長裏の同点走者を刺して日本を救った。自分の力を出し切ったようにも見えた山田選手だが、「個人記録には興味がない」という。「悔いばかりが残る大会だった」と振り返る。
「アテネでは、あともう1試合戦いたかった。決勝戦に出たかったんです。自分のことを信じて、先頭打者としてずっと使ってくださった宇津木監督の気持ちに応えられなかったことが、本当に申しわけないというか、悔しかったです。今も悔やまれるのは、開幕の第一打席。シドニーオリンピックのときは、斉藤春香さんが先頭打者ホームランを打って一気にチームを乗せることができたのに、自分は塁に出ることができませんでした。アメリカ戦の先制点となった犠牲フライを刺せなかったことも悔しくて・・・。打席ではとにかく塁に出ることだけを考えていましたが、前半戦で打てなかったとき、所属チーム同期の西山麗選手が日本から『テレビで見てるけど、打撃フォームがいつもの山田と違う』というアドバイスの連絡をくれて、うまく修正することができました。みんなが応援してくれて、いっしょに戦ってくれたのに、勝てなかったことが本当に申しわけなかったです」
日本代表チームは、それまで国際試合でほとんど負けたことのなかったオーストラリアに、アテネでは勝つことができなかった。
「オーストラリアは今まで戦ったどの試合とも、まったく違う配球で攻めてきました。データを取るだけとって、本番まではわざと違う攻め方をしてきたんです。常に警戒していたはずなのに、やられてしまいました。今度の世界選手権ではオーストラリアとは予選から当たります。今のチームではすでに何回かオーストラリアに手の内を隠しながら戦ってきて、大きく勝ち越してきています。でも、本番では簡単に勝たせてくれないということを、日本代表として初めて世界選手権を迎える選手たちに、経験者の一人として言い続けてたいと思っています」
若い世代が増え、新しい日本代表チームはスタメンもベンチも元気よく、常に大きな声を出して盛り上げ、どんなときも全力疾走。怖いもの知らずが身上だ。
「今回は1番打者から3番打者へと自分は役割を変えますが、とにかく塁に出ることを心がけ、そして走ることでもチームの流れをつくっていきたい。10日間を勝ち抜くために、メンタル面でのスタミナをつけていくことが、今後のチームの課題だと思っています」