アスリートメッセージ
第28回オリンピック競技大会(2004/アテネ)のアーチェリー競技で、日本は1つの国から参加できる最大数である男女それぞれ3名、合計6名を代表選手として送ることになりました。
オリンピックでのアーチェリー競技は、射距離70m。直径122cmのターゲット・フェース(的・まと)を使用します。的は内側から黄、赤、青、黒、白の5色のリングになっています。各色の中央にラインがあり、例えば白は2点と1点というように、同じ色でも得点が2種類あります。
トップレベルの競技では、まん中の直径12.2cm(10点)と直径24.4cm(9点)の黄色の部分に矢が集中します。的は大きいように見えますが、実は70m手前から24.4cmの的を狙って競技をするということなのです。
参加する競技者は男女各64名で、すべて1対1のマッチ戦で行われます。
競技はまず個人戦、団体戦での対戦相手やシューティングの位置や順番を決めるためのランキング・ラウンドを行います(8月12日 女子:午前、男子:午後 非公開)。
ランキング・ラウンドの矢数は1人72射(720点満点)で、制限時間4分の間に6射(1エンド)を12エンド(12回)くり返します。ランキング・ラウンドでの個人順位は競技者個人の得点、また団体順位は3競技者の合計得点で決まります。
試合はランキング・ラウンドの順位によりトーナメント表を作成し、その表の組み合わせによって勝ち抜きマッチ戦が行われます。個人戦で1射に使える時間は40秒以内で、それまでにシュートできなければ、その矢は失格となります。
弓は簡単に引けるように見えますが、女子選手でも、その引き重量は約17kg、男子選手では約20kg(10kgの米袋2個分!)にもなるそうです。
競技の内容を少し知っただけでも、アーチェリーという競技は大変に集中力が必要であることが容易に想像できます。2003年の世界選手権大会で見事団体2位という成績を納め、オリンピック代表選手となった川内紗代子、河﨑由加里、松下紗耶未の3選手にお話をうかがいました。
- いろいろなスポーツがあるなかで、なぜアーチェリーだったのですか?
川内 「高校の部活動にアーチェリーがあり、先輩の姿を見て一目惚れしました。アーチェリーは奥が深いスポーツで、その魅力を言い表わすのは難しく、やってみないとわからないと思うのですが、強いて言えば自分の思い描いた通りに的にあたった時の爽快感が忘れられないということでしょうか」
河﨑 「公立の中学に通っていた時、同じ学区内の高校にアーチェリー部があり、私が高校に入学する直前にそのアーチェリー部の先輩が全国大会で優勝されました。自分が通う高校に全国大会で優勝できるほど強いクラブがあることを知り、優勝を目指せる強いクラブで高校生活を送りたいと思って始めました。たまには嫌だなと思うこともありましたが、あっという間に13年も経ち、いまでは生活の中心にアーチェリーがあるという感じです。アーチェリーを取られたら何をして過ごせばいいのか想像もつきません。ボーッとしたまま時間だけが過ぎて終わってしまいそう(笑)」
松下 「私は運動が苦手です。走ったりボールを扱うのが上手くできないので、中学生の時に母がそんな私に合うスポーツということでアーチェリーを勧めてくれました。学校が中学・高校一貫教育だったので、高校生といっしょに活動したため早く伸びたようです。
さすがに中学からアーチェリーを始める人は少なくて、1人で入部し、高校を卒業した時も1人。指導してくださった先生とは親子のようだといわれていました。実は私は高校を卒業したらアーチェリーはやめようと思っていました。それはジュニアと大人のレベルが歴然と違い、高校選抜や国体で優勝していましたが、大人に混じると負けるだろうと思ったからでした。負けるくらいならやめたほうがいいと。
ところが近畿大学アーチェリー部の山田秀明監督が、高校選抜に優勝した時から私に注目してくれていて、高校在学中に3回ほど大分まで足を運んでくださいました。松下選手を近畿大学で預かれば、オリンピックに出場できる選手にします。と、断るつもりだった母を説得し、母も監督の熱心な姿に心を動かされたようです。
高校時代には1日1時間も練習していなかった(それでも勝てていた)のに、大学に入ったら朝から夕方までびっしり練習で、1〜2年生の間は嫌でしようがありませんでした。先輩も厳しかったですし。
3年生の時にアジア大会に出られるようになってから気持ちが変わりました。監督ときちんと意見の交換ができるようになり、絆も生まれ、成績も良くなりました。3年生から4年生になる1年間で急激に成長し、自分でもどこが変わったのか判らないまま好成績、日本新記録まで出るという結果が得られました。この時自分の気持ちを変えることができていなければ、ナショナルチームに選ばれることもなかったと思います」
- アーチェリーの道具のことを教えて下さい。
川内 「基本は弓と矢があればOKです。道具に男女の違いはなく、個人の体型や腕の長さなどにより弓の長さが変わります。またそれぞれの持つパワーによって強い弓や弱い弓を選ぶことができます。道具を一式揃えるには、中・上級者が使っているもので約30万円位です。初心者の方々にはレンタルというシステムもありますので、手ぶらで行って試してみて、続けられそうだったら購入するという方法もあります。公共で運営しているアーチェリー教室などもありますから、興味がある方は問い合わせてみるのもいい方法だと思います」
- アーチェリーの団体競技はどのように進むのですか?
河﨑 「3分間で9本の矢を3人で射(う)ちます。順番のルールはなく、1人で3本射って次の人に替わってもいいし、1本づつ3人が交代で射ってもかまいません。とにかく制限時間の3分間以内に3人がそれぞれ3本ずつ、平均して20秒に1回射てばいいということなのです」
- 基礎的なトレーニングではどこかを特別鍛えたりするのですか?
河﨑 「週に数回、全身をまんべんなく筋トレをしています。アーチェリーは、矢を一定の位置に保つための力が要求されます。1、2ミリでも引きが足りなかったり、引き過ぎたりすると正確に的に当てることができないので、細かい筋肉を鍛えることが必要です。うまくなってくると、技術的なことよりも精神力のほうが重要です。就寝前には、次の日の練習をイメージするようにしています。新聞や雑誌でスポーツ選手が試合に勝ったり負けたりしたときの気持ちが書かれた記事を読んで、世界で活躍する選手でも悩むこともあるのだから、私ももっとがんばれると思えたり、思考方法を変えることで今まで見ていた物事を別の面から捕らえることができ、刺激になっています」
松下 「アーチェリーは体力より精神力が必要なスポーツです。一番最近では世界選手権の時に肩に故障があり、その不安から焦りが出ていましたが、世界選手権は今日、この日しかない、思いきって射とうと気持ちを切り替え、2位といういい結果が得られました。アテネに向けても今から精神力を保っていけば大丈夫だと思っています。私はアーチェリーと私生活は分けて考えているので、遊びたい時は遅くまで思いっきり遊ぶし、練習する時は夜になってもやめないこともあります。我慢はしません。ストレスはためない主義なので」 (次のページへ)