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2024.10.08 Paris2024 Medalists’ Voices

チーム一丸でつかんだ栄光 ー オリンピック史に名を刻む新競技チャンピオンの喜び(ブレイキン・湯浅 亜実(Ami))

新競技ブレイキンBガールで初代チャンピオンに輝いた湯浅亜実(ダンサーネーム:Ami)選手(PHOTO:PHOTO KISHIMOTO)

湯浅 亜実

パリ2024オリンピックで唯一新競技として採用された「ブレイキン」。Bガールで初代チャンピオンに輝いたのが湯浅亜実(ダンサーネーム:Ami)選手だった。変幻自在のダンスで頂点へ登り詰めた新女王の思いに迫る。

しんどさを乗り越えて

――おめでとうございます。新競技として今大会採用されたブレイキンで初代チャンピオンとなりました。一夜明けての感想をお伝えいただけますか。

 一番は率直にすごくうれしいなというのはあるのですが、まだ昨日のことで、消化し切れていないというか、信じ切れていないという感じです。本当はもっとうれしいはずなのに、実感ができていなくて、ふわふわしている状態です。

――まだふわふわしている感じが続いているのですね。

 まだ続いています(笑)。

――時間とともに実感が湧いてくるかもしれませんね。周囲の反響はいかがでしょうか。

 たくさんのメッセージをいただいて、個人的にもらったメッセージやLINEにはお返事しました。SNSでもたくさんメンションをしていただいているのですが、ちょっと追い切れていなくて……、全部は見られていない状態です。

――では、ふわふわが落ち着いてからゆっくりお返事しましょうか。

 そうですね(笑)。そうします。

――このタイミングでオリンピックの新競技になったわけですので、元々オリンピックを目指して競技を始めたわけではないと思います。オリンピック競技になることが決まってから、ここにくるまでの心境をぜひ教えていただけますか。

 ダンススポーツをやると決めたきっかけは、引っ張っていく日本連盟の人たちが、自分がブレイキンに取り組む上で尊敬できる人たちだったからです。「それなら挑戦してみようかな」という気持ちで挑戦を始めました。でも、今までやっていたカルチャーのイベントとは違うことがすごく多かったし、運営側にとっても出る側にとっても0から1を創り出す段階だったので変更点もすごく多かったし、もちろん身体的にも精神的にしんどいこともすごく多かったという状態でした。でも、ダンススポーツを約4年やってきたこともあり、いろいろなことを経験したことで、気持ち的にはすごく強くなっていました。
 また、TEAM JAPANをはじめ、家族や友達などいろいろな方たちのサポートがあってここまで来られました。オリンピックに出場することはOQS(オリンピック予選シリーズ)の最後で決まったのですが、個人的にはすごくOQSがしんどかったです。日本勢3人がOQSに入っていましたが、オリンピックに出られるのは二人だけ。実際に、1位から3位まで日本人選手だったというくらいハイレベルな戦いでした。
 オリンピックが決まってからは、みんなが「楽しんで」と言ってくれるし、せっかく自分でつかんだチケットだから、シビアになりすぎずに全力で楽しもうという気持ちで挑んでいたので、メダルとか結果とかはあまり気にしてなかったですね。

――即興で踊らなければならないけれど、繰り返しの技は評価されにくいため多くの引き出しも求められる。一方で、観ている側からすれば、クールな技は何度でも観たいという気持ちもある。「カルチャーも大切にしたい」というAmi選手だからこそ、競技ゆえに決められたルールの中で演じないといけない難しさもあったと思いますが、どのようにして向き合ってきたのでしょう。

 引き出しを増やすのは練習と経験値だと思っています。それこそ自分やAyumiさん(福島あゆみ選手)は他のBガールと比べたら引き出しは断然多い方です。だから、TWICE(トゥワイス)と呼ばれる同じ技を2回で繰り返すことは絶対にしません。一方、若い選手たちは力強さやパッションはすごいけどリピートのように見える技も多く、経験値の差が出るなと思いました。自分がどこにこだわるのかを明確にしてダンスを創り上げていくという感じですね。

やり切った達成感と開放感

――試合を振り返っていただくと、予選リーグを順当に勝ち上がり、トーナメント準々決勝ではSyssy(シア・デンベレ/フランス)選手を破りました。続くIndia(インディア・サルジュー/オランダ)選手との準決勝が大きな山場だったように思います。とくにストーリー性の高い3本目の演技は、決勝戦でもおかしくないような内容に感じましたが、どのような心境だったのでしょうか。

 ありがとうございます。私の中で一つ絶対に超えたかった山がトップ8でした。準々決勝を勝ったら、決勝にしても3位決定戦にしても全ラウンドで戦うことができますから、勝っても負けても自分の出し切るものは全部出せるようになります。そういう意味で、トップ8のSyssyとの試合は本当に勝ちたいという気持ちでした。そこを勝ってからは、準決勝のIndiaをはじめ、トップ4に残っているみんなが本当にすごいことはわかっていたので、すべてを出さなくては勝てないなと思っていました。
 おっしゃった通り、トップ4で出した技も、本当は決勝の一番大事なところで出したかったネタだったのですが、決勝でやるのではなく、「今、ここでこのムーブを出すべきだな」とふと思ったひらめきに、素直に従ってやったという感じでした。この結果につながった判断は正解だったと思っています。

――すごく素敵でしたし、ストーリーが伝わってきました。

 ありがとうございます。

――Nicka(ドミニカ・バネビッチ/リトアニア)選手との決勝では、勝利が決まった後にメンバーたちがステージに上がってきて、円陣になる感じもすごく感動的でしたが、その中心にいたAmi選手はどのような気持ちでしたか。

 決勝が終わって、勝った、負けたについては、正直なところあまり気にしていませんでした。「やり切った」「とりあえず、終わった」というような気持ちでした。結果が出るスクリーンを見ていたのですが、自分の結果を理解するよりも先にみんながステージ上に出てきて、頭の中が大混乱していました(笑)。みんなが本当にうれしそうにしてくれていたので、それで「あ、勝ったんだ」と思いましたね。自分の理解より先にみんなが来てくれたという感じでした。

――解放感の方が強かったのでしょうか。

 あ、そうですね。解放感の方が強かったですし、Nickaともお互いに出し切ったので、結果がどうあれ、よく頑張ったという感じでした。

決勝戦を終え、湯浅亜実(ダンサーネーム:Ami)選手とドミニカ・バネビッチ(ダンサーネーム:Nicka)選手(リトアニア)は健闘をたたえ合う(PHOTO:MATSUO.K/AFLO SPORT)

ダンスを愛し合う仲間たち

――歓喜の輪ができた時、対戦相手のNicka選手がずっとAmi選手をたたえていました。悔しさもあったと思うのですが、輪がほどけるのを待ってハグするタイミングをずっと伺っていました。Ami選手のことを心からたたえる姿は、ブレイキンというスポーツ、ダンスカルチャーの素晴らしさを感じるシーンだったと感じます。

 はい。Nickaと私は「Red Bull BC One All Stars」という同じチームにも所属しています。バトルの時はもちろん戦うのですが、一緒にやってきている仲間でもあって。Nickaは、あれだけ一生懸命やっていて絶対悔しいはずなのに、いつもそういう感じです。以前の大会でも、先に彼女が負けた時に「絶対行けるよ、決勝頑張って!」と言いにきてくれました。17歳とすごく若いですし、普段は本当に子どもみたいなところもあるのですが、そういう時にはすごくしっかりしていて、まっすぐさを感じます。

――試合は試合ですが、同じダンスを愛する仲間として一番分かり合える関係性が、表彰台に上がった皆さんの温かい雰囲気につながっていると感じました。

 はい、そうですね。ダンススポーツは、いろいろな大会でもほとんど同じメンバーが全員集結して出ているので、お互いに頑張っていることはよくわかっているというところはあると思います。

――オリンピックが本来目指していることも、スポーツを通して心身ともに健全な人々が育って、そういう人たちが交流を深めて国際平和を成し遂げていくことにあります。今大会ブレイキンが新競技に選ばれた理由も、そういったところにあるのかと感じました。

 ブレイキンでは、バトル前にみんなで一緒にサイファー(円になり即興でダンスを披露する自主練習)しています。もちろん競技となれば、国ごとに行動することは多いんですが、カルチャーのイベントだったら、全然違う国の人たちがみんなで一緒に遊んでいたりするので、そういうすごく温かい雰囲気がありますよね。ブレイキンを通してみんなが世界とつながっているというのは、この競技の大きな魅力だと思います。

――一方で、オレンジ色TEAM JAPANのユニフォームを着て、表彰台の真ん中に立って、日の丸が上がり、君が代が流れるといった景色は、オリンピックならではという独特な雰囲気もあったのではないでしょうか。

 本当に感動しましたね。日の丸が上がった時には、「うわー、やったんだな!」という感じでした。普段の大会だと、レペゼンして(チームや仲間を背負って)踊ることはあっても、国を背負って踊るようなことはまずありません。自分がオリンピックに出場するにあたっても、そこはあまり気にしないようにしたいと思っていましたが、いざオリンピックの開会式やバトルに参加すると、日本人がすごく大きな声で応援してくれて、「みんなで一丸となって戦っている」という感覚はオリンピックならではでしたし、本当に力強さを感じました。

――ありがとうございます。ブレイキンにもさらに注目が集まると思いますので、トップダンサーとしてメッセージを発信していってください。おめでとうございます。

 ありがとうございます!

湯浅亜実(ダンサーネーム:Ami)選手(PHOTO:AP/AFLO)

■プロフィール

湯浅亜実(ゆあさ・あみ)
1998年12月11日生まれ。埼玉県出身。ダンサー名Ami。10歳の時にブレイキンを始める。18年に世界最高峰の「Red Bull BC One」ワールドファイナルで優勝、翌年の世界選手権では女子ブレイキンで初代女王となる。21年世界選手権で女子ブレイキン2位、22年ワールドゲームズで女子ブレイキンの金メダル、同年世界選手権の女子ブレイキンで2度目の優勝を果たした。23年「Red Bull BC One World Final」に2度目の優勝。24年パリ2024オリンピック女子ブレイキンで金メダルを獲得し、初代女王に輝く。Good Foot Crew所属。

注記載
※本インタビューは2024年8月10日に行われたものです。

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