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2024.10.08 Paris2024 Medalists’ Voices

心優しき金メダリスト ー 栄光へと導いた研究の積み重ねと貫いた自分らしさ(柔道・角田夏実)

柔道女子48kg級で金メダルを獲得した角田夏実選手(PHOTO:YUTAKA/AFLO SPORT)

角田 夏実

巴投げと腕ひしぎ十字固めを武器に勝ち進み、柔道女子48kg級で金メダルを獲得した角田夏実選手。試合前の笑顔と表彰台の涙が印象的だった彼女が語る勝利の鍵は、徹底した相手への研究とそれに基づくシミュレーションの成果だった。

柔道を愛する仲間との戦い

――パリ2024オリンピックでは、TEAM JAPAN初のメダル、そして、金メダリスト第1号になりました。本当におめでとうございます。そして、最後の混合団体まで長丁場に渡りお疲れ様でした。個人戦の際、試合前も笑顔を絶やさずいらっしゃった様子、さらに、表彰台の上の涙もどちらも印象的でした。率直なご感想を改めて教えてください。

 パリ2024オリンピックの代表に決まってから、長い……、そして、長かったようで短かった1年間でした。大変な思いも辛い思いもいろいろありましたし、逃げ出したくなったこともありましたが、諦めずに戦うことができて金メダルをとることができました。周りの方々に支えられて、今の自分があると思っています。

――柔道勢のトップとして先陣を切ることへのプレッシャーはあったのでしょうか。

 柔道競技は、48kg級から始まりますし、以前出場していた52kg級の時でも、大会の初めのほうで試合を行うことは当たり前でした。その点では慣れもあるのでプレッシャーはありませんでした。逆に、「早く終わらせたい」という気持ちの方が昔から強いです(笑)。

――金メダルを獲得して、表彰台の4人が笑顔でハグし合う姿は、オリンピック本来の理念でもあるオリンピズムの象徴的なシーンだったと感じました。戦う相手でも、畳を降りれば柔道というスポーツを愛する仲間たちでもあります。角田選手は、どんなお気持ちで表彰台の上に立っていらっしゃいましたか。

 戦う前は怖い顔をしている選手も、表彰式の時にはみんなが「おめでとう」と声をかけてくれたり、試合の時を振り返って話をしたり、みんな「やっと終わった」という感覚があったのかなと感じました。自分の場合、試合は試合ですが、練習はフレンドリーにやりたいタイプです。海外選手にもそういう選手が多くて、試合が終わって畳を降りたら、一緒に戦う仲間として接することができるのも魅力だと思います。

――ひとたび試合を終えれば柔道を愛する仲間、すごく素敵な関係ですよね。

 はい、本当にそうですね。

勝利の鍵はシミュレーション

――混合団体決勝のフランス戦では2階級上のサラレオニー・シジク選手と対戦して勝利しました。角田選手が巴投げで勝負することは相手も分かっているはずなのに、その型を崩すこともなく相手を仕留めてしまう。観ている私たちからは「強すぎる」と見えるのですが、柔道専門家「角田夏実」として、ご自身を分析するとその強さの秘訣がどこにあるとお考えでしょうか。

 実際に技を受けた上で対策をされてしまうとまた変わってくるのですが、シジク選手とは試合も練習もしたことがなかったので、おそらく相手も「受けられるだろう」「耐えられるだろう」と思っていたのではないかなと思います。最初に私の方から何回か技をかけているうちに、「いけるかな」という手応えをつかめた感じがありました。試合の中でもとくに対策されるような印象もなかったですし、あの階級で私が出てくると相手が予想していなかったからこそ、あのような戦い方ができたのかなと思っています。

――裏を返せば、同階級の人たちと戦う時は、体重としては同格になるわけですけど、角田選手の戦法に慣れている人たちが相手になります。その分、対策されやすくなりますが、そういう中でも次々に巴投げを決められるのはなぜなのでしょうか。

 同階級の場合は、相手の受け方や特徴などといった相手の癖を研究して、巴投げの方向などを考えていきます。しっかり勝ち上がりを見て、対策して、研究して、こうやって相手が受けてくるだろうなというところまでしっかり考えて戦っています。1発目で技が入らなくても、「やはりそういうふうに受けてきたな」と思える感じになって、だんだん自分の研究通りにハマってくれば、いい試合の流れができます。

――試合前のシミュレーションが大事ということですね。

 はい、そうです。めちゃくちゃシミュレーションはしますね。

――その上で、「相手がこう受けてきたらこうしよう」という引き出しもいくつか用意しておくというようなイメージでしょうか。

 はい。ベースとなる戦術をたくさん用意します。試合中にはそれを一つ一つ考えることはできないので、練習中から何回も「こうなりそうだ」とシミュレーションして、試合中は無意識でできるぐらいまで準備しておくのが自分のスタイルです。

――さらには、相手の反応、重心の変化、体幹の位置などを見ながら、さらに細かなアレンジを加えていくようなイメージでしょうか。

 はい、そうです。

角田夏実選手は分かっていても防ぎきれない巴投げを武器に勝ち進んだ(PHOTO:Koji Aoki/AFLO SPORT)

オリンピックゆえの反響

――金メダリストとなりました。メダルをとる前と何かご自身の周りに変化を感じますか。

 私、こんなに知り合いがいたかしら、と思ってしまいました(笑)。メッセージも返し切れないと思うほどいただき、 数百件も通知が溜まっていて、こんなに友達いたかなと思っています。

――それだけ反響が大きかったということですね。

 オリンピックは普通の国際大会とは違うと改めて感じました。試合前は「いつも通りにやるしかない」と思っていました。ですから、あまりオリンピックが特別だということを気にしないようにしていました。オリンピックに関連したワードも、極力自分からは聞かないように、取り入れないようにしていました。結果的に、試合はいつも通りにできましたし、試合が終わった時も、単に「試合が終わったな」という感じでした。
 ただ、親にも「おめでとう」の声が届くというような話も聞いています。柔道をあまり知らない人も観ていてくれていたようですし、同級生から「私も頑張ろうと思った」と言ってもらったことは本当にうれしかったです。

――初めてのオリンピックを体験してみて、普通の大会と違う魅力を感じた部分はありましたか。

 日本でも、海外でも試合をしてきましたが、TEAM JAPANとしてのサポートがすごくしっかりしていて手厚いことを実感しました。サポートセンターで日本食を食べたり、お風呂に入ったり、交代浴もできたりして、海外にいる感じもせずに試合ができたというのはありがたかったです。

――52kg級で戦っていた角田選手が48kg級で試合をするための減量も大変だと思うのですが、ダイエットに関するアドバイスなどはありますか。

 私の場合は、試合のための減量で、計量が終わったらすぐ体重を戻さなくてはいけないこともあり、いわゆるダイエットには不向きなやり方ですね。ただ、やはり常に動くこと、食べたら動くことが大切なので、「動いたら食べられる」などと自分で決めているといいですよね。私自身も食べることが好きなので、「ランニングを頑張ったら食べよう」というようなモチベーションがあると走りに行くことができますよね。そんなふうに、自らにハードルを課して、そのハードルを乗り越えたらご褒美を与えるのがいいかもしれませんね。

――素晴らしい感動の試合の数々とコメントをありがとうございました。ますますのご活躍を期待しています。

 ありがとうございました。

角田夏実選手(PHOTO:YUTAKA/AFLO SPORT)

■プロフィール

角田夏実(つのだ・なつみ)
1992年8月6日生まれ。千葉県出身。小学2年の時に柔道を始める。高校2年ではインターハイ女子52㎏級で3位。3年の時にはインターハイで5位に終わった。柔道を辞めることも考えたが、顧問の勧めで大学進学を決意。大学では寝技の強化に努めて、大学3年の時には、学生体重別選手権で優勝。卒業後、16年のグランドスラム東京では女子52㎏級に出場し、IJGワールド柔道ツアー初優勝を果たす。19年に48㎏級に階級を変更し、東京2020オリンピックの代表を目指すも代表入りならず。引退も考えたが、コーチの説得で踏みとどまる。21~23年世界選手権女子48㎏級で3連覇を果たし、23年グランドスラム東京の女子48㎏級ではオール一本勝ちで優勝。24年グランドスラムアンタルヤでも優勝。同年パリ2024オリンピック女子48㎏級では、同階級20年ぶりとなる金メダルを獲得。混合団体では銀メダル獲得に貢献。SBC湘南美容クリニック所属。

注記載
※本インタビューは2024年8月4日に行われたものです。

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