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2024.10.08 Paris2024 Medalists’ Voices

未来の金メダルを信じて ー 4年後、8年後、喜びを分かち合う瞬間を迎えるために(レスリング・須﨑優衣)

レスリング女子フリースタイル50kg級で銅メダルを獲得した須﨑優衣選手(PHOTO:Bradley Kanaris/PHOTO KISHIMOTO)

須﨑 優衣

 東京2020オリンピックでは圧倒的な強さでオリンピックチャンピオンの座をつかみとった須﨑優衣選手。パリ2024オリンピックでは初戦で敗れる波乱もあったが、敗者復活戦を勝ち進んで銅メダルを獲得した。未来に向けて悔しさを乗り越えようとする彼女の思いとは。

自分自身に対する約束

――銅メダル獲得となりました。いろいろ複雑なお気持ちもあるかと思いますが、私たちからは「おめでとうございます」とお伝えさせてください。改めて率直なご感想をお願いできますでしょうか。

 ありがとうございます。はい。この負けてからの2日間はすごく苦しい2日間でしたが、ロサンゼルス2028オリンピックの金メダル、その次のブリスベン2032オリンピックの金メダル、3位決定戦で勝って銅メダルを獲得することが未来の金メダルにつながると信じて戦いました。

――東京2020オリンピックでは、圧倒的な試合展開で強さが際立っていました。パリ2024オリンピックの3位決定戦もまさに須﨑選手らしい試合だったと思います。今回、ビネシュ・ビネシュ選手(インド)に敗れた初戦だけが、あまり見たことがないような試合だったという印象も受けます。ご自身としては、どこに難しさがあったと感じますか。

 まずは昨日の試合、3位決定戦を勝つことがとりあえずの目標でしたから、今の時点ではまだ初戦の振り返りをしっかりとできていないのが現状です。細かな部分まではまだ把握できていないのですが、相手の戦術にはまってしまって自分のレスリングが出し切れなかったということが敗因だと思っています。

――国際大会で外国人選手に負けていなかった須﨑選手だからこそ、ショックも大きかったと想像します。気持ちを切り替えることもかなり難しかったのではないかと思うのですが、どのように心を整理したのでしょうか。

 周りの人々のたくさんの支えのおかげで、切り替えて立ち直ることができたと思います。いろいろな方々からの言葉が本当に響いて、「また、はい上がろう」という気持ちにさせてもらって、周囲の皆さんに感謝しています。

――敗戦から一夜明けて、3位決定戦を戦うというスケジュールとなりましたが、須﨑選手の中で心を整える時間を確保するという意味でプラスに働いたのでしょうか。

 そうですね、はい。

――オクサナ・リバチ選手(ウクライナ)との3位決定戦は本当に素晴らしいレスリングでした。最後に最高の笑顔が見られて私たちもうれしい気持ちになりました。須﨑さんはどのようなお気持ちで戦っていらっしゃいましたか。

 あの試合は思いっきり自分のレスリングができました。最後すっきりして終われたことは良かったと思います。

――表彰式でサラアン・ヒルデブラント選手(アメリカ)に拍手を送るシーンもありました。こちらもジーンときて立派だなと拝見していましたが、表彰台の上ではどんな思いを抱いていたのでしょうか。

 次の4年後、そして8年後は、絶対に私が表彰台の一番上に立って金メダルをとるということを、強く自分に対して約束した時間でした。

――TEAM JAPANとしては、パリ2024オリンピック前半戦からさまざまな競技の選手たちの活躍が目立ちました。レスリングチームは後半からパリで合流することになりましたが、周囲の競技で調子がよいことがプレッシャーに感じた側面はありましたか。

 そういったことは全くなくて、本当に勇気をもらえていました。

須﨑優衣選手は4年後のロサンゼルス2028オリンピック、8年後のブリスベン2032オリンピックでのリベンジを誓った(PHOTO:Naoki Morita/AFLO SPORT)

再びオリンピック王者になるために

――東京2020オリンピックでは、須﨑選手がレスリング女子チーム最年少でしたが、パリ2024オリンピックでは、須﨑選手が最年長という若いチームでした。チームメイトとコミュニケーションをとる上で意識していることはありましたか。

 みんなで切磋琢磨して、励まし合っていました。レスリングは個人戦ですが、お互いに「みんな頑張ろう」「絶対行けるよ」「大丈夫だよ」といった声がけをし合って試合に臨んでいました。

――試合後に須﨑選手が「オリンピックチャンピオンの須﨑優衣じゃなかったら価値がないんじゃないか」と涙ながらにコメントされていました。日本のテレビで解説をしていた伊調馨選手が、それを見てもらい泣きしながら、「みんな須﨑優衣というレスラーが大好きです。須﨑優衣のレスリングを見たくて応援している」とおっしゃっていました。そうした先輩の言葉をどのようにお感じになりますか。

 伊調選手は、私が尊敬する憧れのレスラーの一人です。そういった偉大な女子レスラーの先輩から、そういった心が救われる、貴重で温かい言葉をいただけることは本当にありがたく思います。そして、そうやって、須﨑優衣というレスラーを見たくて、応援してくださる方々のためにも、やはりもう一度オリンピックチャンピオンになる姿をお届けしたいし、また戦い続けていきたいと思います。

――パリ2024オリンピックまでの過程で、ケガも経験されました。連覇を目指す中で、さまざまな苦難や困難があったと思いますが、どのように乗り越えてきたのでしょうか。

 東京2020オリンピックが終わってからの3年間、苦しいことも厳しい試練も本当にたくさんあったのですが、すべては「パリ2024オリンピックで金メダルを獲得する」という目標があったからこそ乗り越えることができましたし、常に向上心を持っていられたと思います。ただ結果としては、その目標を達成することができなかったのですごく悔しいですが、何がダメだったのか敗因をすべて書き出し、ゼロから見つめ直して、この経験を必ず4年後、8年後につなげたいと思います。

――近代オリンピックの父、ピエール・ド・クーベルタンの母国であるフランス・パリで開催されたオリンピックでした。無観客だった東京2020オリンピックとは異なり、パリ2024オリンピックでは、観客の皆さんが大きな声を出して応援している姿がありました。改めて、どんな感想をお持ちになりましたか。

 有観客のオリンピックの素晴らしさ、力強い応援がこんなにもパワーになるということを実感できました。金メダルを獲得して、応援してくださる皆さんと一緒に喜びを分かち合いたかったのですが、それはお預けになってしまいました。有観客のオリンピックは私にとっても特別だったので、4年後、8年後は金メダルを獲得して、応援に来てくださる方々と一緒に喜び合える瞬間を楽しみに頑張りたいと思います。

――オリンピックを見てレスリングを始める子どもたちもいると思います。須﨑選手から何かアドバイスがあれば教えてください。

 そうですね。レスリングを極めることももちろん本当に楽しいですが、そうでなくてもレスリングは、器具も道具も必要なく、全身を使って運動神経を向上させるスポーツだと思います。始めたばかりでも、これから始めたいという方でも、皆さん楽しんでやっていただけたらいいなと思います。

――これまでにも何度か須﨑選手のお話を伺っていますが、いろいろなことを丁寧に、しかもわかりやすく「言葉にして伝える力」は、本当に頼もしく感じています。そして、コーチなどとコミュニケーションをとる際にも、その言語化能力が活かされていると想像します。こういう能力はどのように育んできたのでしょうか。

 ありがとうございます。自分ではあまり意識したことはないのですが、人に伝える時に、自分で伝える言葉が、きちんと正しい意味で届くように言葉を選ぶということは意識しています。

――なるほど。お疲れところ、お話を聞かせていただきありがとうございました。

 はい。ありがとうございました。


須﨑優衣選手(PHOTO:Enrico Calderoni/AFLO SPORT)

■プロフィール

須﨑 優衣(すさき・ゆい)
1999年6月30日生まれ。千葉県出身。小学1年でレスリングを始める。小学3年時に全国少年少女選手権で優勝。2013年JOCエリートアカデミーに入校。17年世界選手権で初優勝、伊調馨選手以来となる高校生世界チャンピオンに輝く。21年、東京2020オリンピックでは女子フリースタイル50kg級で金メダルを獲得。22年世界選手権では、全試合を無失点で優勝。24年アジア選手権でも優勝し、14年の国際大会デビュー以来、外国人選手に負けなしの94連勝を記録した。同年パリ2024オリンピックでは初戦で敗れるが、3位決定戦で勝利して銅メダルを獲得。株式会社キッツ所属。

注記載
※本インタビューは2024年8月8日に行われたものです。

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