MENU ─ コラム/インタビュー
2024.10.08 Paris2024 Medalists’ Voices

声援を力に、自分を信じて ー 努力が実り銀メダルを獲得した喜びを噛みしめたい(近代五種・佐藤大宗)

日本近代五種史上初の銀メダリストとなった佐藤大宗選手(PHOTO:YUTAKA/AFLO SPORT)

佐藤 大宗

パリ2004オリンピックで日本近代五種史上、初のメダリストとなった佐藤大宗選手。5種目を同時に強化し実践する近代五種は、「キング・オブ・スポーツ」と呼ばれる。苦手種目を次々と克服しながらオリンピック銀メダルへとたどり着いたその苦難の道について話してもらった。

兄へのスカウトが競技を始めた契機に

――近代五種では初のメダル、銀メダル獲得となりました。おめでとうございます。歴史をつくりましたが、一夜明けてどんなお気持ちでしょうか。

 一言で言うなら、「本当に最高」という言葉しか出ません(笑)。まだ実感が湧いていないのですが、本当に夢のような感じで、パリにいる間に、自分のフリーな時間の中でメダルをもう一度見つめ直して、今までの努力は間違いじゃなかったんだなということを噛みしめたいと思います。

――今日は眠れたのでしょうか。

 いえ、全然寝られず、朝の5時くらいにやっと寝られました。実は、7時に皆さんと待ち合わせをしていたのに、寝坊してしまいまして……。 皆さんに多大なるご迷惑をおかけしてしまったので「すみません」という感じです(苦笑)。

――お疲れの中、ありがとうございます。近代五種は「キング・オブ・スポーツ」と呼ばれるほどで、生で観戦した時に感じたのは、いろいろな種目が一度に観られて本当に面白い反面、日本人選手がトップクラスで競って活躍できるイメージがなかなか湧かない、難しい競技ということでした。

 本当にそうですよね。

――この競技を始めたのは、どのようなきっかけがあったのでしょうか。

 中学から高校までは水泳をやっていました。一つ上の兄と一緒に海上自衛隊に入隊したのですが、そこで教育を受けていた際に、兄が近代五種経験者の方からお誘いを受けたんですね。ただ、兄は海上自衛隊でやりたい職種があったことから、「自分には弟がいるので声をかけていただいていいですか」と兄が発した一言でご縁をいただくことになりました。遊び半分で、「きつかったらすぐやめよう」という感じで始めたのですが、元々が負けず嫌いなので、先輩方に負けると「クソー、倒してやるぞ」という気持ちになり、ここまで続けてきました。近代五種を始めて11年目、徐々に世界で戦うようになってきたのですが、「日本人では無理だ」とみんなが思っているんです。でも、誰かがそこを打開しないといけない。近代五種という競技は、まだまだ本当にマイナーなので日本に普及できていないと感じていて、「自分が歴史を変えるしかない」という思いで戦ってきました。

――トライアスロンでも3種目の練習を行うバランスが大変だと思います。5種目はどのようなバランスでトレーニングをするものなのでしょうか。

 練習方法はどんどん変わっていきます。最も基礎となるランニングや水泳が速くないと戦えないので、まずは、ランニングに関して週3回から4回、水泳に関してほぼ毎日泳ぐような感じで自分の基礎体力をつけていきます。そこが強くなってきたら、射撃とランニングのレーザーランをメインに週3回、水泳を週1回、フェンシングをほぼ毎日、馬術を週2回練習するように変えていって……といった具合です。このように、いろいろ織り混ぜてながら練習をしています。

佐藤大宗選手は、正確な射撃と力強い走りを武器にレーザーランで順位を上げて見事に銀メダルを獲得した(PHOTO:YUTAKA/AFLO SPORT)

苦手な種目を克服しながら

――昨年はワールドカップで2位に入り、表彰台に立ちました。ご自身としてどの程度の期待感をもってこのパリ2024オリンピックに臨まれたのでしょうか。

 ワールドカップで銀メダルをとった時に戦った海外選手たちの中には、東京2020オリンピックの金メダリストもいました。彼に勝って銀メダルをとれたことはうれしかったのですが、レーザーランの遅さやフェンシングの技術不足が改善点であると感じました。でもその部分こそが伸びしろだと思いましたし、このパリ2024オリンピックまでに、自分で突き詰めていくべき種目を強化できればメダルもいけるだろうということで、自分の中の明確な目標ができました。ケガもせずやってこられたことがメダルにつながったかなと思っています。

――フェンシングが苦手だったとおっしゃいましたが、ランキングラウンドでも上位に入っていましたよね。実際ご自身の手応えとしてはどのように感じていたのでしょうか。

 そうですね。フェンシングに関しては、東京2020オリンピックの金メダリスト、銀メダリスト、今回パリ2024オリンピックで金メダルをとったエジプトのアハメド・エルゲンディ選手もみんなめちゃくちゃ強いのですが、そういう選手たちを相手にポイントがとれていたので「これはいけるんじゃないか」という気持ちがありました。ただ、また馬術で点数もガラリと変わってしまうこともあり、「馬術で300点満点がとれれば自分がいける」と言い聞かせていました。準決勝も決勝も300点満点を出すことができたので、そこで「誰も俺を止められない」という無双状態の気持ちになりました。

――馬術の話も出ましたが、ご自分で馬を選ぶことはできないそうですね。

 はい、抽選なんです。フェンシングのランキングラウンドで一番になった選手から抽選を引き、開催国で用意した馬を割り振りされることになります。なので、自分の馬というわけでもありません。

――そういう初めて乗る馬とコミュニケーションをとるのは難しそうですね。

 そうですね。試合の前日に馬のジャンピングテストがあるのですが、どの馬が抽選で当たるかはわからないので、コーチが撮ってくれたその時の映像を見ながら「この馬は結構スピードが出る」とか「歩幅が狭いな」などと全馬を研究して、自分たちなりの作戦を練ることになります。

――それは難しいですね。そうやってせっかく強化された馬術も、ロサンゼルス2028オリンピックでは変更になると聞いています。

 はい。馬術が種目からなくなることは本当に悲しいことです。ただ、新しい種目「オブスタクルスポーツ」も、いわゆる「SASUKE」のような感じの素晴らしいスポーツです。近代五種はこれまで馬術があるために手をつけづらい競技という側面もあったので、オブスタクルになることでおそらくいろいろな方が競技を始めやすくなり、競技人口も増えてくれるのではないかと思うので、自分は結構楽しみです。

――すごくポジティブですよね。そして、最後のレーザーランでは走りもすごかったのですが、射撃の精度が素晴らしかったと感じました。

 ありがとうございます。射撃もかなり苦手だったのですが、自分を信じて、「たとえ外れてもとにかく前向きにいこう」という気持ちで試合に臨むことができました。すごく当たっていましたよね。最後のランニングも残り200mくらいで完全に余力がなかったのですが、皆さんの声援があって、一歩ずつ前に進むことができました。本当にありがとうございました。

――佐藤選手の活躍によって近代五種が注目を集めることになりました。これからも近代五種を大いに盛り上げていってください。

 ありがとうございます。楽しかったです。

佐藤大宗選手(PHOTO:Reuters/AFLO)

■プロフィール

佐藤大宗(さとう・たいしゅう)
1993年10月20日生まれ。青森県出身。少年時代に少林寺拳法で県大会優勝の経験を持つ。青森山田中高で水泳部に所属し、水泳を活かせる仕事に就きたいと高校卒業後に海上自衛隊に入隊。教官からスカウトされて近代五種を始める。23年ワールドカップで日本勢初メダルとなる2位に入り、同年アジア競技大会6位入賞を果たす。24年初出場となったパリ2024オリンピックでは、最終種目のレーザーランで正確な射撃と安定した走りで順位を上げて銀メダルを獲得。オリンピックで日本人選手がメダルを獲得するのは近代五種史上初の快挙となった。自衛隊体育学校所属。

注記載
※本インタビューは2024年8月11日に行われたものです。

お気に入りに追加

お気に入りに追加するには
会員ログインが必要です。
ログイン会員登録はこちら
お気に入りに追加するには
会員ログインが必要です。
ログイン会員登録はこちら
お気に入りに追加するには
会員ログインが必要です。
ログイン会員登録はこちら
ページをシェア

CATEGORIES & TAGS