柔道男子81kg級で、オリンピック連覇、そして、3大会連続メダル獲得を果たしたのが永瀬貴規選手だ。最強王者でありながら、控えめにたたずむその謙虚な姿勢が、ひときわ彼を魅力的に輝かせる。そんな永瀬選手に思いを聞いた。
――リオデジャネイロ2016オリンピックの銀メダルから3大会連続のメダル、そして東京2020オリンピックに続く連覇ということになりました。個人戦から少し時間が空きましたが、まずは率直な感想をお聞かせいただけますでしょうか。
東京2020オリンピックが終わった後、なかなか勝てなかったり、自分の柔道ができなかったりした時期が続いて、苦しかったり悩んだりする時間が多かったのですが、この「パリ2024オリンピックで優勝する」という目標だけはぶらさずにやってきました。自分らしい柔道ができて、なおかつ最後にしっかりと結果を出して、自分の目標を達成できたことはうれしく思います。
――金メダリストながら表彰台の後ろの方に立つなど、永瀬選手の謙虚さや控えめな様子も話題になっていましたね。
表彰台に関しては狭い場所だったので、体も大きい4人がみんなしっかり入るようにと考えて、結果的にああいう立ち位置になりました。日の丸が一番高い位置に上がっていく様子を目に焼き付けようとは思っていたので、うれしい感情で見ていました。
――大野将平選手が、「永瀬には攻略本がない印象」とおっしゃって「永瀬最強説」を唱えていましたが、ご自身としてはどのように受け止めていますか。
そう言っていただけるのは、素直に言って本当にうれしいです。
――永瀬選手が柔道の専門家としてご自身を見ると、金メダルをとれた要因をどのように解説しますか。
柔道は、勝つ準備も大事ですが、負けない準備も同じくらい大切な作業だと思っています。一瞬で勝敗が決まってしまう部分がある競技なので、僕自身はまずいかに負けるリスクを少なくできるかが重要だと思っているんですね。勝つ確率をあげるために隙がないように自分の柔道を突き詰めたいと考えています。
――それこそが柔道の本質、柔道を哲学するようなお話ですね。
いやいや、そんなことないです(笑)
――東京2020オリンピックは新型コロナウイルス感染症の中で行われたこともあり、無観客だったり、家族とも会えなかったりといった環境の中での大会でした。パリ2024オリンピックは会場も満員でしたし、フランスは柔道大国ということもあって目の肥えたファンの方々も多かったと思います。戦っている永瀬選手はどのように感じていたのでしょうか。
東京の時は無観客でしたが、今回のパリは有観客でした。満員の会場の中で試合ができたこと、なおかつ、柔道が愛されている国でオリンピックができたとことはうれしく思います。歓声や雰囲気は東京と大きく違いましたが、その中でも試合前から冷静に落ち着いて臨めましたし、試合中も平常心で戦うことができて、それが結果にもつながったと思います。
――混合団体準々決勝のセルビア戦では、90kg級のネマニャ・マイドフ選手との対戦となりました。階級が上の相手に対して反則勝ちとなりましたが、どのような手応えで戦っていらっしゃいましたか。
たしかに1階級違うと相手の力も変わってきますが、日頃から自分より体重の重い選手と組む時間もしっかり確保できていました。自分より1階級上、2階級上という選手とは日常的に稽古もしているので、1階級上だからといって考えすぎることなく戦うことができたと思います。体重差を意識するのではなく、相手への対策や自分のやるべきことに重きをおいて準備して試合に臨めました。
――子どもたちやあまり柔道に詳しくない人も含めて、永瀬選手が最後に伝えたいメッセージはありますか。
オリンピックに3大会連続で出場させてもらいましたが、目標を決めて、そこに向けてしっかり計画を立てることが大切だと感じています。自分のピークに合わせて計画を立てて、逆算して今やるべきことをやる。人間は目標がないと頑張ることが難しいと思います。いいことも悪いこともありますが、目標に向かって波をつくり、大会当日に自分のコンディションや心身のピークを持ってくる。そうやっていいコンディションで迎えることは、オリンピックを通して大切なことだと学ばせてもらいました。
――とても大切なメッセージですね。大変お疲れのところ、こうしてお話しいただき本当にありがとうございました。おめでとうございます。
ありがとうございました。
永瀬貴規(ながせ・たかのり)
1993年10月14日生まれ。長崎県出身。6歳の時に兄とともに親戚が営む道場に通い始めたのが柔道との出会い。筑波大学に進学し、2015年の世界選手権では男子81㎏級で金メダルに輝く。16年のリオデジャネイロ2016オリンピックでは男子81㎏級で銅メダルを獲得。17年世界選手権では膝のじん帯を痛めるも18年に復活を果たし、21年東京2020オリンピックでは男子81㎏級で金メダル、混合団体で銀メダルを獲得した。22年、23年世界選手権では男子81㎏級で共に3位。24年グランドスラム・タシケントでは男子81㎏で銅メダル、同年グランドスラム・アンタルヤでは男子81㎏級で金メダルを獲得した。同年パリ2024オリンピックでは男子81㎏級で大会2連覇を達成、混合団体では銀メダル獲得した。旭化成(株)所属。
注記載
※本インタビューは2024年8月4日に行われたものです。
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