パリ2024オリンピック陸上競技女子やり投で金メダルを獲得した北口榛花選手。女子のトラック&フィールドで金メダルを獲得したのは、日本陸上競技史上初の快挙だった。チェコでの武者修行も経験した笑顔のヒロインが、オリンピックの先に見据えるものとは。
――おめでとうございます。新たな歴史をつくりました。一夜明けてどんなお気持ちか、率直な感想をお聞かせいただけますでしょうか。
本当に小さい頃からオリンピックをずっとテレビで観てきましたから、自分が金メダルをとれてすごくうれしいです。今シーズンはちょっと苦しいシーズンでしたが、金メダルをとれたことがその苦しみを少し緩和し、解放してくれる、そんな気持ちです。
――昨年の世界選手権で金メダルを獲得しました。追われる立場となり、プレッシャーも大きかったのではないかと想像しますが、 オリンピックでの戦いはいかがだったのでしょうか。
実際、あまりプレッシャーは感じていませんでした。 たしかに、昨シーズンは優勝しましたけど、今シーズンは記録的なランキングも5番目でしたし、自分も追いかけるものがあるので、そこまですべてに追いかけられるような実感はなかったです。とはいえ、やはり金メダルをとり一番になることを期待されていたとは思うので、 こうやって実現できてすごくうれしいです。
――オリンピックチャンピオンになって、周囲の反響やSNSなどはいかがですか。
試合が終わって、実は2、3時間くらいしか寝られていなくて、メッセージもいただいているのですが、あとでちゃんと読んでから返事したいなと思っているところです。返せてないですけど、日本は真夜中だったにも関わらず、たくさんの方々が応援してくれたんだなというのはすごく感じています。
――はい、たしかに、日本からも多くの方が夜中に応援していたと思います。北口選手の代名詞といえば、最近では最終投てきでの大逆転という形をイメージする方も多いと思います。今回の試合では1投目からいきなりのビッグスローとなりましたが、普段とは違うゲームプランを考えていたのでしょうか。
パリ2024オリンピックの投てき種目は、誰かが1投目にいい記録を出すと、その後記録が出づらいということが他の種目でも続いていました。女子やり投は陸上競技フィールドでの最終種目だったのですが、自分も1投目からしっかりいい記録を出して、他の選手に少しでもプレッシャーをかけられるようにしたいなと思っていました。そういう気持ちで臨んだ1投目で、その通りの結果になってよかったと思います。
――「70m投げている夢を見た」ともおっしゃっていましたが、1投目からいい記録が出た分、余計にもっといい記録を期待する気持ちも生まれたのではないでしょうか。
やはり1投目に65mを投げられるということはそうそうないことですし、いつもの自分の修正力であれば、6投目にもっといいものが投げられたんじゃないかなという悔しさもあります。今回で、オリンピックと世界選手権の両方で金メダルを獲得することができました。両方の金メダルをとったら満足するかなと思っていたのですが、やはり「70」という数字は私の夢の一つでもあり、その数字を目指してこれからも頑張ることになると思います。
――また改めて、競技に対する意欲が湧いてきたということですね。
はい、そうですね。ここからまた頑張りたいなと思います。
――デービッド・セケラックコーチからはどんな言葉がありましたか。
まだあまり多くは話せていないのですが、でも、「最高の選手だ」とほめてもらいました。
――うれしい言葉でしたか。
そうですね。でも、やはり記録的な部分では満足できないところもあります。今、女子やり投は低迷期と言われていることもあるように、競争率はその分高いのですが、大きな記録が出なかったり遠くに投げる選手があんまり多くなかったりします。そのレベルを自分がまた引き上げて、「女子やり投がまた面白い時代になった」と言われるようにしていきたいです。
――銅メダルを獲得したチェコのニコラ・オグロドニコワ選手と健闘をたたえ合うシーンも印象的でした。ライバル選手たちに対しては、どのような思いをもっていますか。
やり投という種目の特性上、他の選手とやりを貸し借りするなどして共有することもよくあります。ライバルは競争相手でありながら、友人でもあり、お互いを高め合える存在だと思っています。とくにチェコのニコラ選手は、私がチェコで練習してきたこともあって昔からよく知っていますし、二人ともお互いのことをわかり合っているからこそ、一緒にメダルをとれたことがすごく感慨深いものになったと思います。
――北口選手の競技生活を振り返ると、チェコへ武者修行に行ってセケラックコーチと出会ったことがすごく大きなターニングポイントだったと思います。言葉もなかなか通じないところへ行ってのチャレンジは、すごく勇気が必要でしたよね。
身近でできることはすべてやったと思っていました。もっと遠くに手を伸ばさなくてはいけない、遠くに手を伸ばさないと自分の思っているような結果は出せないと思ったからこそ踏み出せた1歩でした。言葉については、完璧ではなくても通じ合うくらいにはなるとわかりましたし、頑張ればできるようになります。拠点を作らなくてもいいので、もっと下の世代の選手たちもぜひ海外に挑戦することは続けてほしいです。今回の金メダルのように、自分が道を切り拓くことで、それに続く人が出てくるといいなと思います。
――ありがとうございます。北口選手が周囲の人たちに恵まれるのも、お母様からの教えという笑顔の力も大きいのではないかと改めて感じました。これからも素敵な笑顔をたくさん見せてください。本当におめでとうございます。そして、ありがとうございました。
はい、ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。
北口榛花(きたぐち・はるか)
1998年3月16日生まれ。北海道出身。幼少期より水泳やバドミントンに打ち込む。高校進学時に陸上競技を始める。やり投を始めてわずか2カ月で北海道大会を優勝し、2014年高校2年でインターハイ優勝。15年世界ユース選手権で金メダルを獲得。19年日本選手権初優勝、同年日本記録を更新。21年東京2020オリンピックでは12位。22年世界選手権で銅メダル、23年世界選手権で金メダルを獲得。24年パリ2024オリンピック女子やり投で日本人初の金メダル獲得を成し遂げた。日本航空(株)所属。
注記載
※本インタビューは2024年8月11日に行われたものです。
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