ドラマチックな逆転金メダル ー 最終トリックで大技を決めて連覇を果たしたオリンピック王者（スケートボード・堀米雄斗）

全体レベル向上を喜びに感じて

――オリンピック連覇となりました。おめでとうございます！

　ありがとうございます。

――映画というのか、漫画というのか。最後の最後に大逆転するドラマチックな展開でした。

　今でも本当に2連覇できたことが信じられないし、夢のような時間です。

――周囲の皆さんからの反響はいかがですか。

　応援してくれた人たちみんながお祝いしてくれます。オリンピックをきっかけにスケートボードを知ってくれる人もいっぱいいると思うので、これからもっとスケートボードをリサーチしてほしいなと思っています。

――パリ2024オリンピックに出場するのも薄氷を踏むような思いだったと思います。ようやくたどり着いた舞台で、最後のトリックはどのような気持ちで挑んだのでしょうか。

　そうですね。まずこのオリンピックでTEAM JAPANに参加するということだけでもすごく 難しかったです。2か月前の中国の大会で予選落ちしてしまって、「オリンピックは行けないな」と思って一度は諦めたんです。でも、その大会が終わった後に、まだ次の大会で1位になればオリンピックに行ける可能性があるとみんなから聞いて、ほんの少しの可能性かもしれないけど1％でも可能性があるなら最後までやり切りたいと思いました。それまで守りに入ってしまうことが多かったのですが、「今までの自分の全部を出し切ろう」と、そこで気持ちも吹っ切れました。最後の大会で全部出し切ってオリンピックの舞台に立てたので、そういう可能性を最後まで信じられたことが今回優勝する鍵にもなったと思いますし、家族とか仲間とかファンの人たちなどサポートしてくれるみんなのおかげで最後まで滑り切ることができたと思っているので、本当に感謝しかないですね。

――オリンピックに出場するために苦労した原因の一つが、ルール変更だったと思います。ラン2本、ベストトリック5本の中で良い記録4本の合計点で競った東京2020オリンピックとは異なり、パリ2024オリンピックでは、ランの記録2本のうち1本、ベストトリック5本のうち2本の良い記録が求められるようにルールが変更されました。選手の皆さんにとって大きな影響があったと思いますが、堀米選手ご自身は、どう向き合っていたのでしょうか。

　ルール変更がうまくはまればすごく有利になります。ただ、ランでミスをしてしまうと、その試合ではチャンスがなくなってしまうことが多いので、最初からすごく緊張感が高まるようになりましたし、その結果、スケートボード全体のレベルも上がったと思います。とくに日本では小さい子どもたちもすごくレベルが高いですし、東京2020オリンピックの時と比べて2〜3倍もレベルが上がったように感じます。そうやって自然とレベルが上がった中で、自分もレベルを上げてついていくのもすごく難しかったです。
　自分自身としても、この先、大会だけではなく、スケートボードの撮影やカルチャーの発信という面でも活躍したいと思っているのですが、みんながレベルを上げてくれたことで自分のモチベーションもすごく高く上げられたので、スケートボードの未来はすごく楽しみですよね。

――周囲のレベルが上がれば、堀米選手自身がTEAM JAPANとして出場することも大変になります。スケートボード全体のレベルが上がることは、個人としては喜んでばかりいられないという側面もあるのではないかと思いますが、堀米選手のそういうポジティブなマインドは、どこから湧いてくるのでしょうか。

　大会で自分のベストな滑りをしたいことはもちろんなのですが、スケートボードはやはりカルチャーの部分とかもすごく深い。自分がスケートボードを始めた時に、そういう部分を好きになったので、自分のレベルを常に上げていきたいんですよね。新しいトリックもそうですが、スケボーはトリックだけではない部分もあるので、さまざまなところにこだわりながらやっていきたいです。やはりそういう気持ちがあれば、この先もこのスポーツを続けていけるのかなと思っています。

――3年前に金メダリストとなりお話を伺った時も、競技だけじゃなくて映像を通して魅せる楽しみ方も提供していきたいとおっしゃっていましたよね。今後、こういうことを実現していきたい、この部分をもっと磨いていきたい、そういう思いはありますか。

　スケートのこと、やりたいこと、いろいろありすぎて、どれを言えばいいのかわからないのですが、自分が現役でスケートボードをできる限りは、その時間をずっと楽しみたいです。パリ2024オリンピックを目指す中で、自分もケガがありましたし、周りの選手たちもケガをしながら全力を出し切っていたと思うのですが、やはりスケートボードはケガもつきものです。体の限界もあるだろうと感じているので、ケアしながら体が動く限りスケートボードをしていきたいなと思っています。

ライバルたちへのリスペクト

――悪天候の影響で試合が延期となりました。堀米選手にとっては、プラスだったのかマイナスだったのか、どのように影響しましたか。

　本当に、どっちもどっちでしたね。雨の時でも行けるようには準備はしていたのですが、練習2日目でかかとをケガしてしまったので、日程がずれたことは自分自身うれしかったですし、曇った中で練習が続いていたので、大会当日すごく晴れていたのも、滑っていて気持ちが良かったですね。
　一方で、日程がずれたことで、体力的にはきつかったです。自分自身の感覚を信じているからこそその感覚を変化させることに不安があってこれまであまりトレーニングなどはしてこなかったのですが、ケガも多くなってきたのでトレーニングにも少しずつ取り組んできたんですね。それは、雨天で2日ずれても、体力を持たせることができた要因の一つなのかなと思います。

――一長一短あるものなんですね。それでも、パリの晴れわたった空の下、金メダルを掲げる堀米選手の姿は映えていましたよね。

　はい。すごく良かったです。

――東京2020オリンピックの無観客とは違い、パリ2024オリンピックは多くの観客に見守られて最高に盛り上がっていましたね。

　東京の時は観客がいなくて本当に寂しい気持ちも多かったのですが、それでも画面の向こう側でみんなが応援してくれていました。ただ、パリで感じた生の歓声や、フランスの応援はやはりすごいなと感じました。日本も、スケートボードの大会をはじめ、スポーツ全体がすごく盛り上がればいいなと思います。

――堀米選手が旗振り役となって、スケートボードのカルチャーをますます広めていただけることを期待しています。改めて、一人のスケートボード専門家として、「堀米雄斗」というスケートボーダーが今回優勝できた要因をどう分析しますか。

　滑っている人の気持ちは一人一人違いますし、選手自身が一番わかっているとは思うのですが、やはり「気持ちの強さ」なのかなと思います。オリンピックに出ているスケーターたちとずっと練習もしてきましたが、気持ちの部分がすごく大切なのかなと感じますね。

――スケートボードを観ていると、競い合う皆さんの気持ちが本当に通じ合っているように見えますよね。ライバルだけれども、スケートボードを愛する仲間同士でリスペクトし合い、切磋琢磨し合っている。本当に素晴らしい競技だと感じます。

　大会になればもちろんライバルになるのですが、オリンピックにも出ているだけでも本当にすごいスケーターたちだと思うし、みんながここまでくるためにどれだけハードワークをしてきて、国を背負って戦っているかもわかっている。だからこそ、リスペクトしかないです。ナイジャ（・ヒューストン選手／アメリカ）やシェーン（・オニール選手／オーストラリア）はストリートのプロスケーターとして本当に長くやっているし、自分にとっても憧れてきた存在の選手たちです。そういう人たちと一緒にスケボーができていることやオリンピックで戦えていること自体うれしいことですし、ストリートで他人にできないようなことをして異次元な映像作品とかパートを残しながら大会にチャレンジし続けていることも、リスペクトしているところです。

――ご自身のことを話す時以上に、仲間のことの方が熱量を持って語っている感じがしますね。

　そうですか。自分ではわからないですが（笑）。

――本当にお疲れのところ、お話しくださりありがとうございました。本当におめでとうございます。

　ありがとうございました。