未来を生きていく糧に ー バドミントンと混合ダブルスの魅力を伝えていきたい（バドミントン・渡辺勇大/東野有紗）

弱みを見せるコミュニケーション

――バドミントンチームとして、パリ2024オリンピック最初のメダル、そして2大会連続銅メダルということになりました。以前から「金メダルが目標」とおっしゃっていたので、悔しさもあるかとは思うのですが、まずは、お二人から今の率直なご感想を教えていただけますか。

＜東野＞　東京2020オリンピックが終わってから、金メダルを目指して3年間ずっとやってきました。もちろん、良い思い出もいっぱいあるんですけど、準決勝で負けてしまった後、3位決定戦に臨む時には切り替えも本当にすごく難しかったです。夜も眠れないくらいストレスがかかっている状態でしたが、勇大くんと話し合い、うまく切り替えて試合に臨めて、すごくいいパフォーマンスができました。本当に銅メダルを獲得できて良かったという気持ちでいっぱいです。

＜渡辺＞　準決勝で負けた時は、もちろん悔しい気持ちはありましたが、もう一回オリンピックの舞台でゲームができる喜びを噛み締めなくてはいけないと思いました。「もう一回やろう、ラスト一回やり切ろう」と二人で話し合って、東京2020オリンピックの時よりも、僕はすんなりと受け入れることができて、3位決定戦のゲームに臨めました。大会を通して、自信を持ってプレーできたと思っています。

――眠れないくらいのストレスということでしたが、試合後は寝られたのでしょうか。

＜渡辺＞　はい。僕は普通に寝られたのですが、先輩は寝られなかったみたいです（笑）。

――東野さんは、興奮されていた感じでしょうか。

＜東野＞　興奮もありましたかね。一昨日も悔しくて眠れていなかったので、ずっとあんまり眠れていないです。

――そうした悔しさの中で、具体的にどのように切り替えていったのでしょうか。

＜東野＞　試合に行くのもすごく嫌でした。勇大くんが先に体育館に着いていたのですが、勇大くんの表情を見た時に「自分も切り替えなくては」「よし、頑張ろう」と思えたので、そこでやっと心の底から切り替えることができました。

――東京2020オリンピックの後にお話を伺った際に、お二人は「コミュニケーションが武器」だとおっしゃっていました。この3年間で、そのコミュニケーションが強化された面はありますか。

＜渡辺＞　東京2020オリンピックが終わって、ここから金メダルをとりにいくことを考えるとまだまだ実力が足りない。毎試合、コンディションやモチベーションなど、いろいろな面で完璧ではない中で、自分たちなりにどうやって勝っていくのか、勝つために何が足りないのかを二人で考えた時に、自分の弱みもパートナーにしっかり見せることだと思いました。この3年間で、そういう話し合いがすごく培われてきて今大会でもかなり活かせたと思います。

――本音や素が伝えられるようになりましたか。

＜渡辺＞　そうですね。自分の弱いところ、うまくいかないところを認めたくない自分もいるのですが、ダブルスを組んでいて、どうやって勝とうかと考えた時には、やはり弱みも見せて、その中で作戦を練ろうというのが二人には必要だったかなと考えています。

――東野選手はいかがですか。

＜東野＞　バドミントンは、1年間 通して大会数がすごく多いので、モチベーションの維持がすごく難しいのですが、東京2020オリンピックが終わってから、またさらに大会数もすごく増えました。勝っても負けても、うれしいとか悔しいという気持ちがちょっと低下してしまった時期があって。それをまた勇大くんに伝えるというのがすごく難しかったです。自分にとっては、弱みを見せることが「恥」という感覚が強かったのですが、でもそれを伝えることですごく成長できたと感じているので、弱みを見せることができるようになったのは自分にとって成長できたことかなと思っています。

たくさんの応援に背中を押されて

――初めてメダリストになった東京2020オリンピックと、メダリストとして挑んだパリ2024オリンピック。戦っていて、何か違うことはありましたか。

＜渡辺＞　東京2020オリンピックでメダルをとったという経験は活かされたと思うのですが、正直なところ、世界ランキングを見ればメダル圏外だったので、やはり「二人で挑戦する気持ち」や「最後まで諦めない気持ち」というのが、この結果につながったかなと思っています。

＜東野＞　東京2020オリンピックの時は、中国ペアだけがずば抜けて強くて、その他は誰が上がってくるかわからないような状況でした。今回のパリ2024オリンピックは、ほとんど全員が強くて、どのペアが勝っても本当におかしくない大会でした。私たちもメダリストではありましたが、金メダルはまだとっていなかったので、挑戦者の気持ちで臨めたと思っています。

――新型コロナウイルス感染症の影響で、無観客だった東京2020オリンピックでしたが、それと比較してパリ2024オリンピックは違いもあったと思います。そういう面ではプレーに影響はありましたか。

＜渡辺＞　やはり有観客がいいなと思いました。東京2020オリンピックでは、無観客というところで、プレッシャーや期待だけを感じてしまって、あまりいいパフォーマンスができませんでした。 今回はもちろん緊張もありましたが、お互いの両親も含めて、応援のために日本からも足を運んでいただいたり、現地の日本人ファンなど応援してくださる方々がいたり、たくさんの声援がすごく力になりました。実際に、劣勢だったり、難しかったりしたゲームも多かったのですが、声援で背中を押していただいて、最後に逆転したり、何とかそのゲームをとれたり、試合に勝つことができたと思っています。

＜東野＞　東京2020オリンピックの時は、声援がなくすごく静まり返っていたので、自分の息遣いがよく聞こえてそれをプレッシャーに感じてしまったり、自分で自分にプレッシャーをかけてしまったりしていました。でも、今回は本当にすごく楽しくプレーできましたし、たくさんの方々からいただいたたくさんの応援を自分たちの力に変えてプレーできたことが、メダル獲得につながったと思います。

――新型コロナウイルス感染症が収束して、有観客の試合自体は増えてきたと思うのですが、それでもオリンピックは特別でしたか。

＜東野＞　本当に違いました。雰囲気も「オリンピック感」がすごくあって、普段の国際試合とは全然違う緊張感でした。でもその緊張感も含めてすごく楽しめたパリ2024オリンピックだったと思います。

――渡辺選手は3年前の試合直後にお話を伺った時には、「オリンピックだからといって特別ではない」とおっしゃっていましたよね。

＜渡辺＞　東京2020オリンピックを体感した時に、「やはり、オリンピックってすごいな」と思いました。自分がどうあれ、やはり観ている人たちの大多数は4年に1回のオリンピックをとんでもないものだと思っていますし、やはりオリンピックは特別な場所で、だからこそ、アスリートたちの人生を変えられるのだと思います。パリ2024オリンピックを戦ってみて、「改めて特別だな」「他の選手もやっぱり命を懸けて、人生を懸けて臨んできているな」とすごく実感しました。そういった中で今回のメダル獲得は僕にとって自信になり、今後の生きていく糧になったと思うし、人生の大きな転機になるんじゃないかなと思っています。

――周囲からの反響はいかがですか。

＜東野＞　東京2020オリンピックの時は、観てくれていた人がすごく多くて、本当にたくさんメッセージをいただきました。パリは時差があって、自分たちの試合は、日本時間の深夜3時とか4時とかの試合が多くなりました。ただ、最後の3位決定戦は夜10時ぐらい、ちょうどまだみんなが起きている時間帯で試合することができたので、本当にたくさんの方々が観ていてくれたようで、LINEやメッセージをくれる方もすごく多かったです。3年前と同じくらいたくさんの方々がメッセージをくれてうれしかったです。

＜渡辺＞　両親や兄は現地に来てくれていて、試合後に会うことができて「ありがとう」と言ってもらえたのですごくうれしかったです。メッセージなどについては、あまり大きな声では言えませんが、友達が少ないんであまり来なかったですね（笑）。

＜東野＞　一回LINEを消したからでしょ（笑）。

＜渡辺＞　LINEをリセットしたので、本当に仲がいいというか深い関係の友達しかいなくて。

＜東野＞　逆にいいじゃん。

＜渡辺＞　はい。信頼している方々から、たくさんメッセージをいただきました。

――そろそろお時間ということなのですが、最後に「本当はこれを伝えたいな」ということがあれば、ぜひメッセージをいただけますか。

＜渡辺＞　隠し事もなければ、聞かれて答えませんということも何にもないのですが……、でも、たくさんテレビに出たいですね。CMも出たいです。バドミントンが有名になったら一番うれしいので、そのためであれば、どこでもいろいろなところに出ていきたいとは思っています。

＜東野＞　勇大くんと一緒で、バドミントンが盛り上がってくれるとうれしい気持ちもありますし、日本ではまだまだ混合ダブルスの試合数が少なく、全然知られていないと思うので、何年後になるかわかりませんが、二人で協力しながら、混合ダブルスの大会を開催できたらうれしいですね。夢ではありますが、今後、混合ダブルスを始めてくれる子どもたちが増えたらいいなと思っています。

――それは素敵ですね。3年前も、男女一緒にスポーツをする難しさのことはお話ししましたよね。

＜東野＞　はい。

――ありがとうございます。実現を願いながら、応援していきたいと思います。本当にありがとうございました。おめでとうございます。

＜二人＞　ありがとうございました。