日本オリンピック委員会(JOC)は4月28日から30日までの3日間、2018年平昌冬季オリンピックに向けた合宿形式の研修会「The Building up Team Japan 2017 for Pyeongchang」を開催しました。この研修会は、国内外の転戦が多く活動拠点が幅広い冬季競技同士の連携や交流を深め、日本代表としての自覚と責任、連帯感を強めることを目的に2010年バンクーバー冬季オリンピックから行われており、今回で3大会目。会場の味の素ナショナルトレーニングセンターには各競技のトップアスリートや指導者、国内競技連盟(NF)スタッフら約260名が集まりました。
初日のオープニングメッセージでは古川年正JOC選手強化副本部長兼平昌対策プロジェクト委員長が「これを機会にぜひ選手同士が知り合いとなり、情報交換の場に使ってほしい」と挨拶。続けて、競泳の萩野公介選手、体操の内村航平選手、レスリングの伊調馨選手らリオデジャネイロオリンピックの金メダリストがリオ現地で収録したビデオメッセージが紹介されました。
次に登壇した橋本聖子JOC選手強化本部長は、この合宿がバンクーバー冬季オリンピック、ソチ冬季オリンピックの過去2大会において大きな成果をもたらしたと説明した上で、「ひとつでも多くのことを吸収し、一方で自分が持っている多くの素晴らしいものを他の選手に伝える重要性も理解しながら、この素晴らしい機会を活かしてください」と訓示を述べました。
■チームビルディングで交流
研修会の最初のプログラムとして実施されたのは、選手同士の交流を図ることを目的とした「チームビルディング」。ここでは、グループごとに手を繋いだままフラフープをくぐるゲーム、互いのコミュニケーションのみで絵の法則性を推理するゲームなどを実施。グループは競技や年齢、オリンピック出場経験の有無を超えて構成されましたが、ゲームが進むにつれてコミュニケーションも活発になり、2時間のプログラムが終わるころには各選手間で競技の垣根を越えた交流が深まっていました。
初日最後のプログラムとして、「トップアスリートのための安全管理〜トラブルを起こさない、巻き込まれないために〜」をテーマにした研修が実施されました。2部構成で進められ、警視庁による「反社会的勢力の脅威」、「薬物乱用防止について」の講義と、コンプライアンス研修に続き、選手の身近で実際に起きた事件にフォーカスしたグループディスカッションを通じ、多くの意見交換や解決方法が共有されました。
■夏・冬のオリンピアンから学ぶ
2日目は、伊東秀仁JOC平昌対策プロジェクト副委員長が「平昌オリンピックまで10カ月を切りました。研修を通じ、平昌までの日々をどのように過ごしたらいいかをぜひ考えてください」と挨拶してスタート。2日目最初のプログラムとして、The学1「パネルディスカッション〜冬季オリンピアンから学ぶ〜」が行われました。長野冬季オリンピックのスキー・ジャンプ団体金メダリストである原田雅彦JOC平昌対策プロジェクト委員による進行のもと、カルガリー冬季オリンピック男子スピードスケート500m銅メダリストの黒岩彰JOCアシスタントナショナルコーチ、バンクーバー冬季オリンピックに出場したスピードスケート女子の髙木美帆選手、ソチ冬季オリンピックスキー・ジャンプ女子4位の髙梨沙羅選手、同大会スキー・ノルディック複合で銀メダルを獲得した渡部暁斗選手、また、同大会に出場したアイスホッケー女子の大澤ちほ選手がパネリストとして参加し、それぞれのオリンピックでの経験、挫折、成功談などを語り合いました。
次に、The学2「平昌オリンピックに関する情報提供」では、外務省アジア太平洋州局北東アジア課の児玉啓佑課長補佐が日韓関係の現状や主な懸案、スポーツに関する過去の事例などを説明。続けて、オリンピックで選手の食生活をサポートする「JOC G-Road Station」の担当者がリオデジャネイロオリンピックでの実例をもとに、平昌オリンピックに向けた栄養サポートを紹介しました。
The学3「夏から学ぶ(1)〜競泳〜」では、平井伯昌JOCナショナルコーチ、萩野公介選手が登壇。萩野選手が金メダルを獲得したリオデジャネイロオリンピック競泳男子400m個人メドレーの予選、決勝の当日はどのような調整を行ったのか、また他選手のレース展開を見ながら直前で変更したレースプランやその当時の萩野選手自身の心情などを細かく説明しました。さらに、オリンピック本番だけではなく、その前年の世界選手権で設定した目標から始まり、その結果を踏まえてリオまでにどのように修正したか、そしてリオでの反省を次の東京2020大会に向けてどう生かすかなど、実体験に基づく貴重な情報を紹介。その上で平井コーチは「楽に勝てる方法はありません。選手のみならず指導者自身も成長していかなければならない」と述べると、萩野選手は冬季競技の選手たちに向けて「プレッシャーはたくさんあると思いますが、夏の競技の僕たちも含めて日本国民全員が皆さんを応援しています。ぜひオリンピックの特別な雰囲気を全力で楽しんでいただいて、自分の全ての力を発揮してください」とエールを送りました。
■卓球でチームワークを向上
お昼休憩を挟み、選手たちは卓球場へ移動。ここではチームワークを高めるプログラムとして卓球に挑戦しました。宮崎義仁JOCナショナルコーチの指導の下、グループごとに分かれた各テーブルでは張本智和選手らJOCエリートアカデミー生がコーチを務め、ラケットの上でボールをポンポンとリフティングする基礎練習や、ラリーの練習などを実施。慣れないラケットを手に最初は悪戦苦闘する選手も多く見られましたが、徐々にコツをつかむと、実戦形式のダブルス、シングルスマッチではどのテーブルも白熱した試合を展開していました。
次のプログラムとして、上田大介さんを講師としてThe学4「選手とソーシャルメディア」を実施。多くのアスリートが活用するSNSの良い面と悪い面、選手の立場における活用方法などを学びました。続くThe学5では「睡眠と運動パフォーマンス」をテーマに、睡眠がもたらす運動パフォーマンスの変化や、時差ボケのメカニズムとその対処法などについて、スタンフォード大学医学部精神科の西野精治教授が講義を行いました。
2日目最後のプログラムとして行われたのはメディアトレーニング。フジテレビの西岡孝洋アナウンサー、三田友梨佳アナウンサーが講師を務め、アスリートはメディアとどう向き合っていくか、また、インタビュアーとどのように向き合い、自分の気持ちをうまく伝えるかなど、実際にあった過去のインタビュー例などから選手たちはレクチャーを受けました。続けて行われた夕食情報交換会では、引き続き西岡アナウンサーと三田アナウンサーによる司会のもと、模擬インタビューを体験。講義で学んだことを生かしながら、スピードスケートの加藤条治選手、スキー・フリースタイルの堀島行真選手、カーリングの藤澤五月選手などがテンポ良くインタビューに答えていました。
■書道家とアスリートの共通点とは
最終日は書道家の武田双雲さんを講師に招き、「異分野から学ぶ」をテーマにしたThe学6からスタート。武田さんは講話の中で「気」という字をキーワードに挙げ、「気合いを入れるとよく言いますが、気合いというのは自分の中の『気』と今の磁場の『気』が合うこと。自分の力だけが入っていてもだめで、本番だけ意識をしてもリズムが合いません」と説きました。また、人生の中で大切にする一文字を「楽」に決め、毎日「楽」が持つ「リラックス」「エンジョイ」などのマインドに沿って過ごした結果、常に気合いが入った状態で疲れなくなったというエピソードとともに、自分のベストパフォーマンスをするためには日頃の過ごし方が大切というメッセージを選手に送りました。プログラムの最後には書のパフォーマンスを披露し、あらかじめ各選手が自分にとって大切にしたい漢字一文字をしたためた大きな紙に力強く「和」という文字を加えると、大きな拍手が沸き起こりました。
研修最後のプログラムは、2004年アテネオリンピック体操男子団体金メダルのメンバーで、現在男子日本代表チームの監督を務めている水鳥寿思JOC専任コーチによるThe学7「夏から学ぶ(2)〜体操競技〜」。現役時代、大きなけがが多かったという水鳥コーチは、身体が使えないときにこそ心を鍛えたいという思いから、さまざまな手法のメンタルトレーニングを実践。試合におけるイメージの作り方、技の習得におけるイメージの作り方をそれぞれ具体的な方法を示しながら説明しました。
また、リオデジャネイロオリンピックでアテネオリンピック以来3大会ぶりの団体金メダルを獲得した男子代表チームについて、チーム作りの考え方をはじめ、大会への準備やサポート体制、ミスが重なった予選から決勝までの間にどのように切り替え、立て直しを図ったかなどの舞台裏を紹介。チーム作りについて「アテネの時と比べてルールや技の難度、選手の性格も違う。キャプテンがチームをまとめていたということが唯一当時と同じで、あとのプロセスは今の選手に合わせる必要があると思い試行錯誤しました」と語った水鳥コーチは、東京2020大会に向けて「種目別も含めた総合力で、次のステージを戦っていきたい」と抱負を語りました。
クロージングセッションで登壇した橋本聖子JOC選手強化本部長は研修を振り返り、「2泊3日の研修の価値は、これから皆さんが決めること。参加してよかったと言って終わるだけではなく、いかにそれを理解し、自分に置き換えてプラスにしていくかが大事です」と述べ、3日間にわたるプログラムを終えた選手たちにエールを送りました。そして、「皆さんは今回を機に競技間、種目間の友好を深めたことでしょう。自分の競技以上に他の競技から見つめてもらうことも勉強になりますし、自分の持っているものを他競技で頑張って悩んでいる選手にアドバイスをしてあげることも、自分自身を磨くきっかけになります。人としてしっかりとした道を歩んでいくということを常に心がけて、頑張っていただきたいと思います」と述べ、研修を締めくくりました。
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