公益財団法人日本オリンピック委員会(JOC)は、キャリアアカデミー事業の新たな取り組みである、引退するトップアスリートのセカンドキャリア支援を目指す「アスナビNEXT」の一環として、インターンシップを実施しました。
今回のインターンシップは、これまでのアスリートの本人希望、職業適性検査を基にした支援活動に加え、職業経験を積むことを通じ、アスリートに働くイメージを具体化してもらうとともに、就職を希望する業界に対する理解を深め、トップアスリートと企業のより良いマッチングを目指す初めての取り組みです。
「アスナビNEXT」によるインターンシップ第1号となったのは、リオデジャネイロオリンピック競泳女子4×100メートルリレーの第3泳者として8位入賞した山口美咲さん。本人の希望と適性検査から浮かび上がった「接客」「人を笑顔にしたい」「食への興味」「ホスピタリティ志向」というキーワードを基に、日本旅館「星のや東京」、株式会社自然回帰が運営する飲食店「Farm Kitchen 然」、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会ゴールドパートナーである三井住友銀行がキッザニア東京に出展している銀行パビリオンで、それぞれ3日間ずつのインターンシップを経験しました。
■旅館でハウスキーピング、フロント業務
1社目の「星のや東京」ではハウスキーピング、フロントや玄関での接客業を主に体験。同旅館では一人でベッド・枕のシーツの取り替え、お風呂など水回りの清掃を行うとのことですが、山口さんも教えられた手順どおりにベッドメーキング、清掃をテキパキとこなしていました。「水泳のときに使っていた体幹を結構使うんですよ(笑)」と山口さん。その仕事ぶりに、指導したスタッフも「すごく上手になりましたね」と舌を巻いていました。
また、ハウスキーピングやフロント業務以外にも、「業務の性質上、腰を痛めやすい」という旅館の従業員のためのストレッチを山口さんが考案中とのこと。コミュニケーションも密に取れているようで、3日間ですっかりスタッフとも溶け込んでいました。
もともと興味があったという旅館業務を直に体験し、「学ぶことが多くて毎日がすごく新鮮です。水泳は個人競技でありながら団体競技に近い結束力が強いのですが、旅館でも一人の成功はみんなの成功というように、チーム力とか、やりがいにつながっている。現役時代もみんなのために頑張りたいと思ってやってきたので、その時と同じ思い、アスリート魂がくすぐられますね」と、新たな発見もあった様子。その一方で海外からの宿泊客も多く、「現役時代は海外選手とのコミュニケーションは感覚でなんとかなっていましたが、仕事となると、やはり英語をしっかり勉強していかないとダメですね」と、今後に向けての課題も見つかったようでした。
終了後、山口さんはレポートで「会社の方針であるフラットな関係というものにも素晴らしさを感じ、自発的なことが認めてもらえること、そこに耳を傾けてくれる仲間がチームにいることがアスリートと同じ考え方だと感じました」と報告しています。
■飲食店でホール業務、料理の仕込み
2社目の「Farm Kitchen 然」では主にホールで接客を担当。インターンシップ初日から団体予約が何件も入るなど、店内は大盛況の中、山口さんは持ち前の明るさと人当たりの良さ、物覚えの早さで注文取り、配膳などをそつなくこなしていました。この仕事ぶりに表情を崩して喜んだのが、同社の大西礼二代表取締役社長です。「やはり1つのことを極めたアスリートは違いますね。とても素直ですし、何かを吸収しようという気持ちが強い。間違いなく一般社会でも活躍すると思いますよ。明日からでもぜひウチの正社員になってほしいくらいです(笑)」。
そう絶賛された山口さんも「食」と「接客」に携わる飲食店での仕事は、大きな刺激になったようです。特にこの飲食店では、自社農園で農薬・肥料を一切使わない自然栽培により収穫した農作物を料理に使用しています。ただ料理を作る、客に提供するという仕事だけでなく、農作物を作るところから始まる“ストーリー”を大西社長から熱心に教えられた山口さん。
「私も食に対してはこだわりを持っていましたが、また違った食へのこだわりを聞くことができてすごく楽しいですね。人は口にするものでできていると私は思っていて、お客様の口に入るまでどのような経緯があって、思いがあって、考えがあってと、そうしたことを深く知ることができました」。
アスリートとして人一倍、食事には気を遣ってきただけに「こうした仕事はアスリートとしてもすごくプラスになります」と、インターン初日から多くを学んだことを実感していました。
なお、料理を作るのも好きだという山口さんは、インターン2日目からは厨房にも入り、簡単な料理の仕込みや揚げ物、盛り付けの手伝いまでこなしたとのとのことです。また、終了後のレポートでは「自分自身も食には興味がとてもありましたが、教育そして愛は食に繋がるということを学ぶことが出来ました。私たちアスリートにも重要な食に関して、違った目線、新しい情報に私自身も驚いたことがありました」と述べており、改めて食の奥深さを実感したようです。
■キッザニアの三井住友銀行ブースで子供たちをサポート
最後の3社目は三井住友銀行。と言っても、ここでは銀行の仕事を経験するのではなく、同社が出展しているキッザニア東京の銀行パビリオン内で、職業体験をする子供たちをサポートし、仕事の内容を伝える「スーパーバイザー」としての仕事を経験しました。
銀行員を体験する子供たちも緊張の面持ちですが、同じくらいの緊張の表情で子供たちに接する山口さん。しかし、子供たちの素直な返事、笑顔で徐々にほぐれてきたか、次第に「スーパーバイザー」として子供たちの職業体験が上手にいくようにサポートできるようになりました。また、ここでも吸収の早さを発揮した山口さんは、子供のサポート以外にも銀行の窓口業務を担当。キッザニア内の通貨を預けにきた子供たちに対し“三井住友の銀行員”としてスムーズに対応していました。
「大人相手の接客とはまた違って、子供への接客も楽しいです。子供たちの表情がキラキラしていますし、それを見守る親御さんたちの表情もキラキラしている。そして、それは何よりスタッフさんたちの笑顔がキラキラしているからなんだなと思いました。私もそんな笑顔ができていましたか?」
これまではアスリートとして、そしてオリンピアンとして水泳を通して子供たちに夢を与えてきました。しかしこの日は、水泳とは全く違った立場から子供たちと交流。「子供の成長、吸収力の高さをすごく感じました。次世代を担うあの子たちがどのように成長して、将来どんな社会を築いていくんだろうって楽しみになりました」と、「教育」という面にも興味を持った印象でした。
また、終了後のレポートで「自分自身がアクティビティにてこどもと触れ合ったとき、こどもの吸収率の高さや素直な気持ちを感じ、改めて自ら動くことや知ろうとする気持ちの大切さを感じることができました」と報告した山口さん。子供たちからも多くのことを学んだようです。
■「人を笑顔にする」仕事に
3社のインターンシップを終え、山口さんはそのいずれもが今後の職業選択、人生の選択においてとても大きな勉強になったと語りました。
「アルバイトもしたことのなかった私が、こうした機会をいただいて3社に受け入れていただき、毎日勉強させていただきました。こうして現場を見て、体験して、たくさんの仕事があるんだなと知ることができましたし、自分がどういう仕事をしたいのか改めて考える機会にもなりました。より具体的に今後の自分をイメージできるようになったと思います」
お世話になった3社すべてに共通していたこととして、山口さんが語ったのは「人の喜ぶ顔が見たい」ということ。
「水泳では自分とばかり向き合っていた私がいましたが、今回のインターンシップではお客様のために自分が何をできるかを考えるのが喜びであり、楽しみだということを学びました。3社のおもてなしの心だったり、ホスピタリティを見て、私もこのようになりたいと、強く思うようになりました」
今回のインターンシップを良い経験にし、山口さんも「人を笑顔にする」仕事に携わることを目指していくとのことです。
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