日本オリンピック委員会(JOC)は12月2日、「平成27年度JOCコーチ会議」を開催しました。JOCの役員、選手強化本部をはじめ各専門委員会の委員や、ナショナルコーチ、国内競技団体(NF)の関係者ら、強化に関わる300名が参加し、3部構成で会議を実施。第1部/キーノートスピーチとしてスポーツ庁の鈴木大地長官の所信表明、JOCの橋本聖子選手強化本部長からスポーツ庁と選手強化本部の連携について等、第2部/トピックスでは関係団体からの情報提供、第3部/リオデジャネイロオリンピックでは田裕司日本代表選手団総監督からリオへ向けた対策やパネルディスカッションが行われました。
開会のあいさつに立った竹田恆和JOC会長は「昨年、国際オリンピック委員会(IOC)はオリンピックアジェンダ2020を採択しました。これによりさまざまな意味でスポーツの環境が変わり、大きな改革が起きようとしています。JOCとしても将来のJOCのあり方について、将来構想プロジェクトを立ち上げて議論しているところです。さらなるリーダーシップを取り、JOCとNFが一体になって最善の結果を出せるようにしていきたいと思います」と、JOCのリーダーシップとNFとの協力体制の構築が、スポーツ界の発展に必要であると訴えました。
■第1部:キーノートスピーチ
続いてキーノートスピーチとして、10月に発足したスポーツ庁の初代長官となった鈴木大地長官が、「スポーツ庁は『スポーツによる健康増進』『わが国の国際競技力の向上』『わが国の国際的地位の向上』『スポーツによる地域・経済の活性化』の4つを柱にしています。スポーツの力で約40兆円の医療費を減らせれば、強化に回すこともできます。スポーツはお金がかかるのではなくお金を生むものであるということも広めたい」と所信表明。最後に、「スポーツ庁は、スポーツを通じて国民が生涯にわたり心身ともに健康で文化的な生活を営むことができる社会の実現を目指し、全力で取り組んでまいります」と意気込みを述べました。
次に壇上に上った橋本聖子JOC選手強化本部長は、自身が強化本部長に就任するときから掲げている「人間力なくして、競技力向上なし」という方針を説明。「強くなるためのわがままは何でも聞きたいが、そうではないわがままは聞かない。アスリートファーストというが、アスリートの言うことだけを聞いて成功した例がすべてかというとそうではないと思う。しかるところでしかる人も必要」と人間力の向上に向けてコーチが果たすべき役割を強調。そして、「競技が終わったあともその選手がいかに次の世代に社会貢献をして伝えていくか、スポーツ文化の継承能力が備わっていなければ、本当の意味で国から予算をもらうことは難しい」と話すと、集まっていたコーチたちは引き締まった表情を見せていました。
続いて先卓歩スポーツ庁競技スポーツ課長が、「スポーツ庁ができ、長官が来て大きく変わった点が2つあります。1つは5者会議の創設です。スポーツ庁、JOC、JPC、日本スポーツ振興センター、日本体育協会が集まって話す場ができました。そして、2つ目が長官会見です。定例的に長官が記者の前に立って自分の言葉で発言することは非常に重要です」と鈴木大地長官の就任よる変化を説明。そして、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の村里敏彰国際渉外・スポーツ局局長からは、競技会場計画や追加種目についての最新の状況が説明されました。
■第2部:トピックス/関係団体からの情報提供
第2部ではさまざまな観点から関係団体による情報提供が行われました。まずは大阪市立大学医学部疲労医学講座の梶本修身教授から「疲労の定量化とオーバートレーニング防止における医学的アプローチ」と題して、疲労のメカニズムと計測、疲労を軽減する方法などについての話がなされました。梶本教授は、疲労は「活性酸素によって細胞がさびていくこと」とし、「筋肉はそんなに疲れない。呼吸・心拍・体温等をコントロールする自律神経系が消耗するから疲れる。身体疲労のメカニズムは活性酸素による脳内の自律神経へのダメージ」であると説明しました。
そして、「前頭葉が発達している人間は、意欲や達成感があるとその疲れにマスクをしてしまう。だから隠れ疲労になり、過労死やオーバートレーニングを引き起こす」とオーバートレーニングになる原因に言及。予防するためには疲労の科学的な測定が必要で、唾液中のヘルペスウイルスの量による測定方法を紹介しました。
さらに、鶏むね肉に多く含まれるイミダゾールジペプチドに抗疲労効果があるという実験結果を紹介。最後に質の良い睡眠が疲労を回復させる上で重要であると訴えました。
次に日本スポーツ仲裁機構の小川和茂理解増進事業専門員が、「選手選考に関するスポーツ仲裁事例からみるチェックポイント」として、「過去の36件の仲裁判断のうち15件が代表選考に関するものでした。明確かつ分かりやすい選考基準を作成し、早めに公表・周知すること。そして選考基準を公表する権限を持っている部門を統一し、情報管理の徹底と漏洩防止を図ること」を挙げました。そして、「紛争を予防することは競技者と競技団体の両者の利益につながる、ひいてはスポーツ界全体の発展につながる」と締めくくりました。
続いて、日本サッカー協会(JFA)の永井雅史インテグリティー・オフィサーが登壇。世界中で行われているスポーツ賭博と八百長のリスク、そしてFIFAやJFAが導入している八百長検出システム、選手への教育など、「サッカー界の八百長防止の取り組み」について説明しました。
最後に、平成26年度JOCナショナルコーチアカデミーの修了式が行われ、第2部は終了しました。
■第3部:オリンピック/リオデジャネイロオリンピックに向けたの取り組み
リオオリンピック対策をテーマにした第3部。冒頭に、リオデジャネイロオリンピック日本代表選手団総監督で、JOCリオデジャネイロ対策プロジェクトの田裕司委員長から、「2020年を見据え、リオは最低でもロンドンの倍取ろうということで金メダル14個を目標として示しました。日本が二桁以上の金メダルを取ったのは5大会しかありません。ハードルはかなり高いです。ただ、今年のオリンピック競技の世界選手権では既に18個の金メダルを取っています。メダルを取った競技団体はそれ以上に、取れなかったところはメダルに届くように。リオでは力を出し切って、各競技団体の目標をクリアしてもらいたいと思います」と、金メダル14個という目標達成に向け、力強く呼びかけました。
続いて行われたのは「世界選手権からリオへ向けた取り組み」をテーマとしたパネルディスカッション。福井烈JOC選手強化副本部長がファシリテーターを務め、男子体操競技の水鳥寿思強化本部長、レスリングの栄和人強化本部長、柔道の南條充寿女子監督、テコンドーの岡本依子強化副委員長がそれぞれの競技団体における強化プランを話しました。
登壇者は今年の世界選手権で好成績を収めた競技団体として、まずは好成績の要因を説明。体操の水鳥強化本部長は37年ぶりに王座に返り咲いた男子団体の勝因として、予選1位通過、ルールに合致した演技構成、個人総合強化+スペシャリストの台頭、ライバル国の自滅、サポートスタッフを挙げ、「中国は決勝に合わせた構成をしてきましたが、日本は予選1位を狙った構成にしました」と予選を1位通過した際の戦略を披露。また、女子柔道の南條監督は、金メダル3つ、銀メダル2つ、銅メダル3つを獲得した世界選手権での躍進の要因について、「ポイントを先行されたときに負けているので、そこを徹底するように。また、外国人選手の情報分析をして伝えました」と情報収集と分析の効果を挙げました。
来年のリオデジャネイロオリンピックでの目標として、レスリングの栄強化本部長がまだ出場権が取れていない男子に関して「あと3回トライアルがあります。フリーで4、グレコで3は出場枠を取りたい」とまずは出場権獲得についての目標を話し、女子については「5つのメダル、すべてが金なら最高ですが3個は金を取りたい」と意気込みました。
体操の水鳥強化本部長は「世界選手権と同等のレベル、団体、個人総合、種目別も金を含む複数のメダルを獲得したい」と話し、柔道の南條女子監督は「金メダル3個以上、そこをベースに強化したい」と世界選手権と同レベルの成果を期待しました。また、テコンドーの岡本強化副委員長は「濱田真由選手ともう1人をリオに出場させること、そしてリオでは初の金メダルを取りたい」と、日本テコンドー界初の金メダル獲得に意欲を見せました。
このパネルディスカッションをもって今年度のJOCコーチ会議は終了。最後は古川年正JOC選手強化副本部長が「ぜひこの内容を各競技団体の現場に共有していただきたい」とあいさつし、多くの競技団体の強化担当者が詰め掛けた会議を締めくくりました。
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