日本オリンピック委員会(JOC)は7月23日、味の素ナショナルトレーニングセンターで「平成27年度JOC冬季競技コーチ会議」を開催しました。JOCの役員、冬季競技の強化担当者、国内競技団体(NF)の関係者ら約63名が参加し、3部構成で会議を実施。第1部では平昌オリンピックに向けた意識や現時点での状況説明、第2部では夏季競技から学ぶ戦略プラン、スポーツアナリスト活用、第3部では平昌合同事前調査の説明、メダル獲得競技の取り組み紹介などが行われました。
■第1部:夏季と冬季の垣根を超えて 橋本本部長「心をひとつに」
開会のあいさつに立った平岡英介JOC専務理事は、各競技団体の代表者を前に「皆さまと一緒に強化体制をしっかりと積み上げていきたいと思っています。お互いに情報を交換、共有することが非常に大事。選手たちが良い成績、良い戦いができることを目指して、環境整備をしていきたい」と、JOCと各団体はもちろん、夏季競技、冬季競技のカテゴリーを超えた協力体制の構築を呼びかけました。
来賓の先卓歩文部科学省スポーツ青少年局競技スポーツ課課長は、今秋10月1日に発足する同省外局のスポーツ庁について説明。「オリンピックで成功する、メダル獲得数を増やすためにも、我が国の国際競技力の向上をますます図っていかなくてはなりません。そのためのバックアップを全力でさせていただきたいと思っています」と支援を誓い、今後の日本スポーツ界の発展を祈念しました。
続いて、「ソチ2014から平昌2018に向けて」をテーマに、橋本聖子JOC選手強化本部長が登壇。2020年東京オリンピック・パラリンピック開催へ向けた動きが目立つなかでの冬季競技コーチ会議開催で、「2018年平昌オリンピック・パラリンピックの結果が、東京2020大会にどれだけ大きな影響を与えることができるのか。私たちにとっての責任は重たいものだと思っています。冬と夏の垣根をなくして、いかに冬が頑張って夏につなぐか、逆に夏が頑張って冬につなげるか。心をひとつにした“チームジャパン”の体制が結果に必ず出てくると確信して、このような会を開催させていただきました」と、夏季競技と冬季競技の切磋琢磨に期待しました。
選手強化・育成については、「選手である前に人間たれ」という古橋廣之進元JOC会長の言葉を用いて、『人間力なくして、競技力向上なし』という強化本部が掲げる基本方針をあらためて説明。東京2020大会のキーワードに“アスリートファースト”が掲げられていることについて触れ、「選手の思うように進んでいくというのも大事ですが、わがままを聞いてあげることがアスリートファーストではありません。適切な判断や声掛けを、選手にしてほしいと思います」と関係者たちを叱咤激励。選手の人間力を磨き、次世代に伝える人材に育てる、“人材の循環”意識の高揚を促しました。
続いて、柳谷直哉JOC強化部長が新組織を説明。古川年正JOC平昌対策プロジェクト委員長が、これまでの冬季オリンピックでのメダル獲得状況、競技別メダル獲得数、過去4回開催した平昌対策プロジェクト会議の主な協議内容を掲示。「過去の実績ではスケート競技とスキー競技がメダルを獲っています。今後は、他の競技でもなんとしてもメダルを。そして、安定的にそれをクリアする(メダルを獲る)ことにも努力したい」と、冬季競技全体の実績向上を目標に掲げました。
■第2部:夏から学ぶ強化体制
第2部では「〜夏から学ぶ〜」と題して、夏季競技の強化事例が紹介されました。初めにレスリングの栄和人JOCナショナルコーチが「リオデジャネイロ大会に向けた戦略プラン」のスピーチ。選手から指導者の道を歩むまでの過程、選手たちとのエピソード、女子レスリング代表の合宿内容などを明かしました。数々の女子選手を育て高い実績を重ねる栄コーチに対し、出席者から「指導する上で感じる男女の違い」について質問が飛ぶと、「女子の指導でフォローが大事だなと感じたことはあります。でもそれは、男女どちらでも一緒じゃないかとも思います」と自論を話し、「とにかく苦労をしてください。苦労をすれば見えてくるものがあります」と、手探りで指導を続けてきた自身の経験をもとにメッセージを伝えました。
次にスポーツアナリストの活用紹介として、フェンシング代表のデータ分析を担当する千葉洋平氏が登壇しました。フェンシング代表は2008年北京オリンピック男子フルーレ個人で太田雄貴選手が、2012年ロンドンオリンピックでは同団体が銀メダルを獲得。直近の世界選手権では、太田選手が見事に金メダルを獲得しています。千葉氏は、試合の映像収集から整理、データ分析といったアナリストの仕事内容をまず紹介し、強豪選手の弱点を見つけるために実施した分析方法や考え方などを、実例を用いて説明しました。スマートフォンやタブレット端末が一般的になったことで、アナリストが分析したデータを“いつでもどこでも”選手たちが自分でチェックすることも可能になりました。「データが経験の埋め合わせをできるわけではありません。経験に勝るものはないと思っています。ただ経験できなかった部分をデータや映像で補完できる、解釈をつけられる。それを一緒にサポートしながらやっています」と千葉氏。フェンシング代表チームが使用するデータ管理アプリがプレゼンテーションのスクリーンに紹介されると、出席者は写真を撮ったりメモをしたりと強く興味を示していました。
■第3部:平昌オリンピックへ向けて
第3部前半では、3年後に開かれる平昌オリンピックの会場予定地、設備の準備状況などが写真や資料を使って報告されました。8月には冬季では初めて実施する、JOCと各競技団体代表者との「JOC-NF 平昌合同事前調査」を控えており、スケジュールや参加者の確認なども行われました。
後半は、冬季でメダル獲得経験を持つ競技団体の代表者6人が、「第23回オリンピック冬季競技大会(2018/平昌)に向けた各競技の取組みについて」をテーマに、2014年ソチオリンピックまでの準備、過去の反省、今後の課題などを語りました。登壇したのはスキー・ジャンプの原田雅彦男子チーフコーチ、同ノルディック複合の河野孝典ヘッドコーチ、同フリースタイルの高野弥寸志部長、同スノーボードの上島しのぶヘッドコーチ、スケート・フィギュアスケートの伊東秀仁ナショナルチームコーチ、同スピードスケートの湯田淳強化部長。それぞれ、若手選手育成や道具研究、代表選手選考基準の厳格化、指導者の国際化など、メダルを獲得するために重視している点を挙げました。
会議終了のあいさつを務めた選手強化本部副本部長の福井烈JOC常務理事は、「スポーツには国を元気にする力があります。日本選手の活躍は皆さんの力がなくては絶対にあり得ません。大変な責任だと思いますが、ぜひ素晴らしい力を発揮できるようにJOCとしても全力で皆さんに協力させていただきたいと思っています。事前視察もありますが、(各団体同士の)人間関係をつくって情報交換をし、最高の環境で選手が本番に臨めるようにサポートしてあげてください」と、熱い言葉で“チームジャパン”の団結をあらためて呼びかけ、5時間に及んだ会議を締めくくりました。
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