日本オリンピック委員会(JOC)は3月27日、味の素ナショナルトレーニングセンターで「JOCオリンピアン研修会」を開催しました。
この研修会は、オリンピアン自身がオリンピズムやオリンピックの価値をあらためて学ぶことを目的に開催されています。今年度2度目となる今回の研修会には、さまざまな競技で活躍したオリンピアン、パラリンピアン34名が参加しました。
冒頭のあいさつに立った平岡英介JOC常務理事・総務委員長は、「オリンピアン、パラリンピアンの皆さんは、厳しいトレーニングを積んで技を磨き、問題点を分析している。それらを努力して実行してきた人間力が、世間の方から評価されているんです。この研修会では、皆さんにオリンピズムやオリンピック・ムーブメントへの考え方を深くご理解いただき、オリンピック・ムーブメント事業にいっそうのご協力をいただければと思っています」と、アスリート達に研修会開催の意図を話しました。
■オリンピック・ムーブメント活動参加への意義
アスリートひとりひとりの自己紹介が終わると、フェリス女学院大学の和田浩一教授によるオリンピックの歴史や理念を学ぶ講義「オリンピックをもっと知ろう」が始まりました。
和田教授は、近代オリンピックの父と呼ばれるピエール・ド・クーベルタンの研究者。クーベルタンの思想や言葉を軸に、近代オリンピックの誕生から、日本がオリンピック参加に至るまでのストーリー、アスリートが感じたオリンピズムを、参加者との会話を交えながら説明しました。1時間の講義の最後には、「クーベルタンはオリンピック選手が高いレベルに行けば行くほど、体を動かすことに関わる人が増えていくと言っています。オリンピアンは、この人たちのためにある存在であり、皆さんもオリンピアンだからこそ、この裾野を広げられる。クーベルタンが思っていたことを、実は皆さんはやろうとしているんです」とオリンピック・ムーブメント推進に参加することの意義を伝えました。
■“東京2020”へ向けて――
続いて、「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会基本計画について」として、村里敏彰東京2020組織委員会国際渉外・スポーツ局長がまず登壇し、大会ビジョン“Tokyo 2020 Vision”の「すべての人が自己ベストを目指し(全員が自己ベスト)」「一人ひとりが互いを認め合い(多様性と調和)」「そして、未来につなげよう(未来への継承)」という基本コンセプトや、開催基本計画などをあらためて説明しました。村里氏は「IOCのバッハ会長からは、『アジェンダ2020は進んでいる、経費削減も実現している』と言ってもらっています。ただそれで満足せず、アスリートファーストの目線を忘れずに、皆さんからの意見や思いをいただきながら、みんなのオリンピック・パラリンピックということで、この東京2020大会を成功に導きたいなと考え、大会の準備にあたっていきたいと思います」と、熱い思いを伝えました。
次にパラリンピック3大会連続出場の経験を持つ田口亜希JOCアスリート専門部会オブザーバーが、パラリンピックの起源や海外での注目度の高まり、開催競技やクラス分けなどの基礎情報を説明しました。さらに、日本と海外の“Accessibility(使用しやすさ、バリアフリー化)”を感じる例を挙げました。「海外は車いすでも入れるトイレなどの数が充実しています。日本は数は少ないですが“おもてなし”の精神でとても便利に作られています」と体験談を交えながら話し、「2020年を機会に東京と日本の“Accessibility”がさらに進んでいくと思います。そしてそれが、アジアや世界の模範になるようになれば。この成熟した東京という都市での開催に期待しています。もちろん誰かにやってもらうだけではなく、自分たちでも盛り上げていきたいです」と、大会の成功に加えて、“東京2020”をきっかけにした“Accessibility”意識の拡大に期待を寄せました。
■活発なディスカッション アスリートがかかえる問題とは?
研修会後半のグループディスカッションでは、「現役アスリートのかかえる問題と解決策について」を5グループに分かれて討論しました。企業所属の選手、スポンサー支援を受ける選手、アルバイトなどで仕事をしている選手などさまざまな立場から、競技活動や活動費用についての現状、将来への不安など率直な意見が上がりました。
特に活動資金や引退後のキャリア形成の不安については、どのグループでも話題に。「競技をやめたあとに自分に何ができるか分からなかった」と正直な思いを口にしたメンバーに周囲もうなずき、「引退後のモデルケースを示すだけでも自分のケースに落とし込んで考えやすい」などの改善策が積極的に出されました。また、「競技を支えてくれるスポンサーの価値をどう高めたらいいのか」「学生を終えたら自分で競技環境づくりをする意識を持たないと」など、アスリート側の意識改革の必要性も語られました。
ディスカッションに参加したアスリートは、「他の競技の状況は知らなかったので驚くこともありました。なかなかこういう話を聞けることはないので、貴重な機会でした」と感想を語り、有意義な時間を過ごした様子でした。
閉会のあいさつで荒木田裕子JOC理事・アスリート専門部会長は、「今年度の福岡、東京の2都市で研修会を実施することができ、ますますオリンピアン・パラリンピアンのネットワークが広がったと思います。来年度(2015)は東京、東日本、西日本の3都市での開催を予定しています。いろんな都市で開催して、私たちが出場した“オリンピックの価値”を(アスリート自身が)もう一度勉強して、もっともっとこの思いを子どもたちに伝えていくような活動をしたいと思っています」と力強く語り、全国のオリンピアン・パラリンピアンがオリンピック・ムーブメント推進の旗手になれるような環境づくりへの意欲を示しました。
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