公益財団法人日本オリンピック委員会(JOC)は9月1日、愛知県名古屋市でトップアスリートの就職支援ナビゲーション「アスナビ」の説明会を行いました。
アスナビとは、オリンピックや世界選手権などを目指すトップアスリートの生活環境を安定させ、競技活動に専念できる環境を整えるために、企業の就職支援を呼びかける活動です。2010年から各地域の経済団体、教育関係機関に向けて本活動の説明会を行い、これまでに33社46人(内定者含む、2014年10月7日現在)の採用が決まっています。
名古屋での企業説明会は2012年2月以来2度目。中部経済同友会のメンバー60社84名に対し、オリンピック出場を目指す6名のアスリートが、自身の強みや目標について熱心にプレゼンテーションを行い、支援を求めました。
はじめに、中部経済同友会の石田建昭代表幹事があいさつに立ち、自身が社長を務める東海東京証券株式会社において、トップアスリートの採用に至った経緯とそのメリット、企業側の責任について説明を行いました。
続いて福井烈JOC理事が登壇し、「企業がスポーツを抱えるというスタイルから、企業とアスリートの双方にメリットのある“雇用”という形態へと移行しつつあります。トップアスリートを雇用していただくのに必要な条件は、皆さんが思っているほど高くありません」と述べ、「日本を代表するアスリートの生の声を聴いていただき、企業経営者の皆様にも日本のトップスポーツ、アスリートの在り方について改めて考える場としていただきたいと思います」と訴えました。
■北京オリンピック銅メダリストの朝原宣治さんによる基調講演
次に、北京オリンピックの陸上競技4×100mリレー銅メダリストの朝原宣治さんが、「目標達成のためのセルフマネジメント」と題した基調講演を行いました。
朝原さんは自身の競技生活やオリンピック、企業での業務内容を紹介しながら、「自分を律するだけでなく、自分の能力をどうやって伸ばすかということに長けている」とトップアスリートの資質をアピール。「即戦力にはならないかもしれませんが、身近に支えてくれるサポーターや理解者がいれば、アスリートの力は競技者を辞めても大きな力になると信じています。必死にトップまで来た選手たちはとても素直で、どこに行っても吸収しようという力が大きい。ぜひ温かい気持ちで、選手たちを競技者として育てるだけでなく、一人の社会人、一人の人間として育てて頂ければ幸いです」とアスリートたちを後押ししました。
■地元の3選手を含む6名のアスリートが企業にアピール
そして、JOCキャリアアカデミー八田茂ディレクターのコーディネートの元、アスリート6名がプレゼンテーションを実施。今回はそれぞれが指導を受ける監督、コーチからの応援コーナーが設けられ、オリンピアンの寺尾悟さん(スケート・ショートトラック)や、志学館大学レスリング部の栄和人監督も登壇しました。
・小黒義明選手(スケート・ショートトラック)
「ソチオリンピックへ出場できず引退を考えましたが、自分の可能性に挑戦したい気持ちと、オリンピックの舞台に立つことを諦められませんでした。ショートトラックは長野オリンピック以降メダルから遠ざかっていますが、4年後の平昌で私がメダルを獲得します。所属企業には、ショートトラックでの活躍で会社の宣伝効果を発揮すること、世界の舞台で戦う自分を見て一体感を感じていただくこと、オリンピックという高い目標に向けた考えや努力を役立てていただくこと、の3点で貢献したいと考えています」
・竹田歩佳選手(スキー・ジャンプ)
「平日はパートタイマーとして、毎日9時から18時まで病院でリハビリの受付をしています。トレーニングの時間がかなり限られていますが、平昌オリンピックで金メダルを取るためには、実践練習とトレーニング時間の更なる確保が必要です。女子ジャンプはいま注目されていますが、次のオリンピックでは札幌オリンピックのときのように日本チーム全員で表彰台を独占できるよう、皆で頑張っています。私もその中の一人に必ずなれるように頑張っていきます」
・矢澤亜季選手(カヌー)
「今朝、3ヶ月に及ぶヨーロッパ遠征から帰国しました。ワールドカップでは自己最高の10位に入ることができました。今回の良い経験を生かし今後の世界大会で活躍できるようにしたいです。私はスピードが持ち味で速く動くことができるので、もちろん仕事も速いです。2020年東京オリンピックでは、2つの種目で金メダルを取りにいきたいと思っています。流れに乗っていくところはもちろん、流れに逆らって漕ぐ私を応援していただくことで、社員の方々に元気と勇気を届けられると思います」
・大橋里衣選手(フェンシング)
「大学卒業後は岐阜県の高校で講師をしながら競技を続けてきました。仕事はやりがいがあり、練習と両立できるよう効率的なやり方を見つけて頑張りましたが、オリンピック出場には東京でナショナルチームの練習にもっと参加しなければいけないと痛感しました。目標はオリンピックで女子フェンシング初のメダルを獲得することです。そのために地元中部の企業の皆さんにご支援いただき、練習拠点で勤務できることが理想です。支援して頂く企業の皆様に少しでも刺激となるよう、積極的に活動していきたいです」
・吉井端江選手(レスリング)
大学のチームで練習しています。女子レスリング75キロ級といえば浜口京子選手が有名ですが、浜口選手に勝って2年後のリオデジャネイロオリンピックや2020年の東京オリンピックでメダルを獲得したいと思っています。卒業後も大学で練習したいので、地元・愛知の企業にぜひご支援いただきたいと思っています。大学の部活動では主務をしていました。後輩の面倒を見たり、事務的な仕事をしていたので、どんな仕事も自信を持って取り組めます」
・志土地希果選手(レスリング)
「吉田沙保里選手や伊調千春選手・馨選手に憧れて、中学3年生で親元を離れ、至学館大学で練習をし始めました。昨年12月の全日本選手権は直前のけがで欠場しましたが、10月に完全復帰します。最終目標はリオデジャネイロオリンピックと東京オリンピックで金メダルを取ることです。そのためにまず、今年12月の全日本選手権で優勝します。来年春、大学を卒業しても練習は地元の名古屋で続けたいので、ぜひ名古屋の企業に就職したいと思っています」
■トップアスリート採用のメリットとは? 採用実績のある2社が事例紹介
その後、アスリートの採用実績がある2社の代表が登壇。採用のメリットや、アスリートがどのような形で業務に参加しているかなど、企業側の立場から事例紹介を行いました。
・東海東京証券株式会社 林雅則執行役員企画管理副本部長
所属アスリート:黒須成美選手(近代五種)、桜井美馬選手(スケート・ショートトラック)
「企業としては、世界の舞台で戦う同僚を応援することで社員に一体感が出る、企業スポーツとしてクラブを持つよりも低コストである、メディアへの露出が増える、自社とは異なる業界のネットワークができる、といったメリットがあります。国内の予選会や壮行会、オリンピックの応援などで社内が盛り上がり、一致団結して高揚感が生まれました。なかなか1つのことで社員が団結するのは難しいですが、こうしたことでスポーツの力、オリンピックの力を実感しました」
・中日本ハイウェイ・エンジニアリング名古屋株式会社 稲葉英憲代表取締役社長
所属アスリート:柏原理子選手(スキー・クロスカントリー)
「超一流のレベルにあるスポーツ選手は、ただ運動能力が高いというだけでその域に達することはできません。自分を常に振り返ってどこを改善するのか、どう努力するのか、自分を高めるために毎日考え続け、それを実践して結果を出す姿勢。そこが社員に伝わればいいなと思いました。その結果は申し上げるまでもなく十分効果が出ています。スポーツとは無縁の会社なので模索をしていますが、社員の方から応援ソングやクロスカントリーのクラブを作ろうといった提案が出るなど、形が見えてきたという状況です」
最後に、中部経済同友会の加藤智子(さとこ)総務委員長が「皆様のことは十分インプットしていただけたと思いますので、ぜひご期待ください。良い企業に受け入れていただくこと、今後ますますのご活躍を心から祈念申し上げます」とアスリートにエールを送り、説明会を締めくくりました。
JOCでは、今後も一人でも多くの選手と一社でも多くの企業が双方にとってプラスになる雇用関係を実現できるよう、「アスナビ」を通じた就職支援を行っていきます。
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