日本オリンピック委員会(JOC)は3月19日、味の素ナショナルトレーニングセンターで「第10回スポーツと環境担当者会議」を開催しました。この会議はスポーツと環境に関する啓発・実践活動の理解を深めるとともに、環境保全について関係者・団体との連携、活動の促進を図ることを目的にしており、今回はJOCや加盟団体の環境担当者ら70名が参加しました。
冒頭、JOCの青木剛副会長兼専務理事が登壇し、「近年は地球温暖化が進み、夏は暑く冬は雪不足で、国内スポーツ大会が卑小化し、われわれスポーツ界にとっても大きな問題です。IOC(国際オリンピック委員会)が、スポーツと文化の2本の柱に環境を加えてから20年が経っています。2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて各競技団体が取り組むべき環境対策を真剣に考えておられますが、今日は皆様方から積極的なご意見をいただいて、有意義な会議にしたいと思います」とあいさつしました。
■スポーツの持続可能性が大きなテーマに
第1部は、水野正人JOC名誉委員・IOCスポーツと環境委員が、昨年10月に開催されたIOCスポーツと環境世界会議の報告と、ソチオリンピックにおける環境の取り組みを発表しました。
水野委員はまず、2020年東京オリンピック・パラリンピックについて、招致活動のプレゼンテーションで使用した映像を用いて会場紹介などを行い、改めて開催決定に対して感謝の言葉を述べるとともに成功のポイントを説明しました。そして、地球温暖化の影響と思われる世界各地の気候変動の例を挙げ、社会だけでなくスポーツにおける「持続可能性」を考えて今のうちからできる限りの対策を講じる必要があると訴えました。
今回で10回目となったIOCスポーツと環境世界会議では、2020年に向けた課題が多数盛り込まれた「アジェンダ2020」が作られたと報告。1995年の会議発足後、これまでの取り組みで見えてきた課題や反省をいかして、今後の進め方を改めて見直していこうというIOCの姿勢を伝えましました。
ソチオリンピックにおける環境対策については、(1)健康な生活の営み、(2)自然との共生、(3)バリアフリー、(4)経済の繁栄、(5)新しい技術の導入、(6)文化と価値という6つのテーマで取り組んだと説明。テーマに即した様々な事例を写真で見せながら具体的に紹介しました。
そして、今回の会議に参加している環境担当者に対し、各競技団体の中で啓発活動と実践活動をしっかりと行い、加えてそれぞれの活動をぜひ写真で報告してほしいとの要望を述べ、環境活動への協力を促しました。
■パネルディスカッションで取り組みを紹介
第2部では、大塚眞一郎JOC理事・スポーツ環境専門部会長コーディネートのもと「2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けた環境啓発・実践活動の取り組み」と題し、JOCスポーツ環境専門部会に所属する日本陸上競技連盟(陸連)の風間明事務局長と日本レスリング協会の鎌賀秀夫評議員の2名に水野委員が加わってパネルディスカッションが行われました。
水野委員は招致活動における環境啓発活動では、環境負荷を最小にすること、緑化推進、スポーツを通じての持続可能性という3つのポイントを柱にしたと報告。「招致活動において世界の仲間と約束したことなので、2020年に向かって実践していきます」と述べました。
風間事務局長からは陸連の取り組みとして、現役選手が小学校を訪問し実技を行う「キッズアスリートプロジェクト」の中で環境に関するプログラムを盛り込んでいると説明。2020年に向けては、大会前に各国代表チームが日本全国で事前合宿を行うため、その際にも環境への配慮をしていかなければならないとの見解を示しました。また、以前は植樹活動を行ったものの、木を植える場所の検討やメンテナンスなどで手間も費用もかかるため別の形に変更しているという事例も紹介しました。
鎌賀評議員は、レスリング競技会の会場で練習マットの周りや選手控え室にごみが多数落ちている状況がなかなか改善しなかったと明かし、子供のころからの教育が大事だと訴えました。さらに将来的には「紙のリザルト(結果用紙)を無くす」という夢を持っていると述べました。
そして、大塚部会長も自身が専務理事を務める日本トライアスロン連合の例として4月に行われる「グリーントライアスロン」というイベントを紹介。横浜で毎年開催している世界トライアスロンシリーズ横浜大会の1ヶ月前のイベントとしてPRブースの設置や海底清掃、スイム会場の試泳などが予定されていると説明しました。
パネリストの発表に続いて、大塚部会長が2020年に向けた取り組みを考える上でのヒントとなるデータを提示。近年は競技・種目数をはじめ参加国や選手の数が増え、提供する食事の量などが大幅に増えていることや、2020年は2000万人の外国人観光客が見込まれていることを挙げ、各競技団体がそれぞれの局面で環境を意識した対応が必要になると述べました。また、質疑応答では2020年に建設される会場の半分を仮設にした理由や、選手を使った啓蒙活動にかかる予算組みなど、熱心な質問が寄せられました。
最後に、大塚部会長が「2020年東京オリンピック・パラリンピック開催が決まってからはじめて行われる環境会議ということで、テーマを絞った会議ができたと思います。2020年は今世紀で一番のオリンピックになることを目指していくので、環境問題は避けて通れません。皆さんと一緒にそれを乗り切っていけるように、本年度からスタートしていければと思います」と閉会のあいさつを行い、会議を締めくくりました。
関連リンク
CATEGORIES & TAGS