日本オリンピック委員会(JOC)は3月28日、スポーツにおける指導者と選手間のコミュニケーション事例の紹介を通じて今後の女性スポーツの発展を目指した「平成24年度JOC女性スポーツフォーラム」を味の素ナショナルトレーニングセンターで開催しました。
冒頭、JOCの市原則之専務理事は「2003年に専門委員会としてスタートしたJOC女性スポーツ専門部会も設置から10年が経過し、本フォーラムも今回で3回目を迎えました。今回は指導者と選手間のコミュニケーションについて取り上げ、アスリートファーストを目指した指導者と選手の関係性を考えていく会議になればと思っています。また併せて質疑応答の時間も設けておりますので、各競技団体で抱えている女性スポーツ等の問題についても意見交換をする場としていただきたい」とあいさつしました。
■指導者と選手のコミュニケーションのあり方とは?
事例紹介として異なる経験をお持ちの3名の方々にご登壇いただきました。まず、日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクターの中竹竜二氏は「スポーツにおけるフォロワーシップ」というテーマで大学選手権2連覇に導いた早稲田大学ラグビー部監督時代のエピソードを交えながら、「これまで一般的に理想とする指導者像は、全てを把握し常に正解を持ち、チームをけん引していく存在(リーダーシップ型)でした。しかし、これからの指導者は知らないことを自覚したうえで選手を巻き込み、考えさせることで選手たちを成長させる人間像(フォロワーシップ型)が求められているのではないでしょうか」と述べ、ご自身の考える指導者の理想像を紹介しました。
また、「選手と1対1で接する時には、『指導者は目の前の人間が必ず成長する』と強く信じることが大切です」と述べ、チームにおける指導のスタンスや、選手との個人面談で意識していることを話しました。
ロンドンオリンピック日本代表監督として、バドミントン界に日本史上初の銀メダルをもたらした朴柱奉(パク・ジュボン)監督は、韓国、イギリス、マレーシア、日本の4カ国で指導をした経験から「海外の選手は積極的にコミュニケーションをとって技術を高める選手が多いのに対して、日本人選手は内向きでなかなか本音を出しません。そのため私自身も選手たちの心が読めるように工夫しています」と語りました。
また、男女合同で練習することが多いバドミントンの特徴について触れ、「日本人選手の場合、世界的なレベルは男子より女子が高いので女子の練習を見せることで男子に刺激を与えています。女子選手に対してはメンタル面でのケアのために話を聞いたり、女性のコーチや医師を交えた面談をしたりして対応しています」と男女の違いについても語りました。
3人目はロンドンオリンピックに自転車の日本代表選手団アドバイザースタッフとして参加した沖美穂氏が登壇。スピードスケートから自転車競技に転身後、一人でフランスに渡り、欧州各地のプロチームを渡り歩いた経験から、「海外ではさまざまな考えを指導者やチームメイトにぶつけて、議論をすることで問題をその場で解決し、切り替えていく事が求められました」と日本と海外でのコミュニケーションの違いについて話しました。また、「海外選手とのコミュニケーションが少ないため、戦略不足に陥り、結果的に成績を残せないことが多くありました。自転車の場合には選手同士の会話から得られる情報も多く、そのようなやり取りが増えていけば競技力の向上につながるのではないでしょうか」と語り、ライバルであってもコミュニケーションをとっていくことが重要であるという考えを紹介しました。
■パネルディスカッションでは活発な議論に
講演終了後には、山口香理事・女性スポーツ専門部会長がコーディネーターとなり、3人の登壇者とパネルディスカッションが行われました。山口部会長は3人が語った内容について質問し、それぞれが考える「スポーツの現場におけるコミュニケーションのあり方」について迫りました。また、質疑応答の時間では日本陸上競技連盟の小松邦江理事・女性委員長や、日本セーリング連盟の中川千鶴子副会長から各所属団体で実施している女性スポーツへの取り組みが紹介され、登壇者、参加者が一緒になって女性スポーツに関する活発な議論が展開されました。
最後にあいさつに立った山口部会長は「女性のスポーツに関する問題は、指導方法についても同じですが、答えを一つに絞れないという問題があります。今日の議論を参考にしつつ、今後も各競技団体同士で情報共有をしていくことで、女性スポーツの問題解決につなげていただきたい」と述べて、フォーラムを締めくくりました。
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