ロンドンオリンピックの陸上競技男子ハンマー投で銅メダルを獲得した室伏広治選手と、レスリング男子グレコローマンスタイル60キロ級で同じく銅メダルを獲得した松本隆太郎選手が7日、ロンドン中心部のジャパンハウスで会見を行い、メダル獲得の心境を語りました。
――今の心境は?
室伏選手 あらためてオリンピックの応援ありがとうございました。ミックスゾーンでも(試合後の)会見でも話させて頂きましたが、みなさんの支えがあってオリンピックにチャレンジできたのでよかったと思います。
ロンドンに来る前に健康診断をして、その時に選手はみんなカルテを渡されるのですが、私のものはすごく厚くて「これだけ試合に出たんだな」と思っていました。今回初めて代表になられた選手は1枚しかなくて、(自分は)最初のカルテが1993年だったので「ちょっと歳を取ったな」という感じがしましたけどが、ここまでやってこられたのは所属会社、母校、教鞭を取らさせて頂いている中京大含め、競技をする環境が整っていたからこそだと思っています。ありがとうございました。
松本選手 北京オリンピックに出られなかった時から金メダルだけを目指して、必死に練習をしてきました。準決勝のイラン人の選手(オミド・ノルージ選手)に負けた時は、夢が終わってしまった気持ちも少しあったのですが、そこは今まで支えてくれている人たち、会場で応援してくれた両親、会社、ファンの方々にしっかりとした形で感謝の気持ちを伝えたいという思いが強かったので、すんなり3位決定戦に気持ちを入れ替えて臨むことができました。個人競技といっても対戦相手がいなきゃできないし、いろいろな支えがないとできなかったので、そういった方たちに感謝の気持ちを忘れずに試合をしたつもりです。
男子グレコローマンスタイル久しぶりのメダルということですが、レスリングと言われると女子の方が(多く)取り上げられて来たので、これを機に男子グレコローマンスタイルを注目してもらえると、レスリングのすそ野も広がって、全スタイルでいい成績を残せると思います。ありがとうございました。
――室伏選手に。最後の6投目の時に、会場は(100m決勝の)ボルト選手への歓声が続く中でしたが、どんな思いでゲージに入りましたか。
室伏選手 もちろん100mの決勝があるのは知っていました。陸上競技は同時進行でやるので慣れてない方は競技場へ行ってどの競技を見ればいいのか分からないと言われるのですが、われわれは慣れていますから反対側で棒高跳びをやっていて、越えれば歓声が起こったりというイレギュラーなことが常に起こっていますので、特にパフォーマンスに影響があるとは思っていません。
――1投目が結果的にファウルになってしまいましたが、そのあたりの切り替えは?
室伏選手 実際には(セレモニーの影響もあり)審判の問題があったと思います。私にとって1投目は非常に重要なものなのですが、ただ、こういうイレギュラーなことが起こるのがオリンピックでありハンマー投げの宿命なので、そこを早く切り替えて「1投目を2投目にずらせばいいだけのこと」と切り替えてやりました。
――投てきの後、観客がほぼいなくなるまで挨拶をされていましたが、どんな思いでしたか?
室伏選手 無事に競技を終えてホッとしたのと、多くの方が応援してくださいましたから、一人ひとりにお礼を言うつもりでウイニングランをしました。
――37歳のオリンピックということで、これまで数々の疾風(困難)があったと思いますが、どのような強い草になった(才能を得た)のか、教えてください。
室伏選手 まさに「疾風、勁草(けいそう)を知る」(強い風が吹いてみて強い草がわかる、転じて困難に遭遇して初めて人の才能や人徳がわかるということ)という言葉が私の信条です。私の競技人生で恵まれたことはライバルがいたことだと思います。初めて80mを投げたのが2000年なんですが、その頃はまだそんなに多くの人が投げていたわけではなかった。ところがそれ以降ハイレベルな試合になって、ドーピングの問題はあったにせよ、より高いレベルのものを要求されたことが、私の「記録を伸ばそう、さらに成績を伸ばそう」という気を駆り立てたと思います。
――アテネとはメダルの色が違いますがどう思っていますか?
室伏選手 (金メダルの)アテネ大会以来、表彰台でメダルを頂けたのはうれしく思います。
――松本選手、昨日の調子はいかがでしたか。またどういう気持ちで試合に臨まれたのか教えてください。
松本選手 減量がある競技なので、計量までこっち(ロンドン)に入ってからもしっかり調整ができて、今回は調子よく体重も落とせて、体調はかなりよかったと思います。試合をしてみないと調子はなんとも言えない面もあるのですが、1回戦からしっかり足も動いて、自分の前に出るスタイルが出せたので、体の調子はよかったと思います。
準決勝のイラン人選手はアジア大会の時も初戦で当たって、その時も負けているのですが、その時からそこまで差はないなと思っていて、今回準決勝で1ラウンドを取られても、焦らずに前に出て後半勝負と思ってやっていったのですが、技をかけるのが遅くなって終わってしまいました。その辺は実力だけでも勝てないし、運だけでも勝てないし、オリンピックなのかなと思ったし、(相手は)昨年の世界チャンピオンということで、これに勝って自分が優勝と思っていたので、そういう面ではうまくいきませんでした。
3位決定戦は応援に来ている方たちに自分の形を見せたいということで、気持ちを切り替えて全力で取り組めて、練習した海外選手に向けた対策も出せたので、よかったなと思いました。
――メダルの報告を一番初めに誰にしましたか。また、どういう言葉をもらいましたか。
室伏選手 最初にハンマー投げを教わったのが父ですから、目の前で見てましたので自動的に報告となりました。そのほかお世話になったみなさんにできるだけ早く報告しました。みなさん喜んで頂いて、特にこの年齢でチャレンジすることの大変さを理解していただいて(メダルという結果を受けて)安心してくれました。
父とは競技を終えてスタンドで少し話して「お前、よかったな」と言ってくれました。あとは人づてに喜んでいたと聞いたので、また家に帰って落ち着いたら話したいと思います。父は私をここまで導いてくれた競技者としての手本でもあり、また人生の先輩ですのでお礼を言いたいです
松本選手 最初に報告したいなと思うのは両親ですね。小さい頃からレスリングをやっている中で栄養面などで支えてくれて、そういう両親に一言「ありがとう」と伝えたかったのですが、僕がドーピング検査を終わった時には帰ってしまっていて……(会場・笑)。試合が終わってマットを降りた時に、両親や弟の顔は見えたので手を振って感謝の気持ちは伝わったのかなと思います。この後、会場に行って会えると思うので「狙った色のメダルではないですが、自分なりにはがんばったよ」と伝えて「ありがとう」と言いたいです。
――室伏さんのIOC(国際オリンピック委員会)アスリート委員の選挙の締め切りが明日(8日)ですが、その手ごたえは? また、松本さんは投票されましたか。
室伏選手 今回、競技と選挙を両方取り組むということで「できるのかな」と思っていましたが、食堂に行ってかなりの方に自分の顔を覚えてもらい、声をかけた人からは「(試合を)応援する」と言ってもらえて、競技が終わって食堂に行くとみんなが「よかったな」と言ってくれましたし、選挙を通して、さらに知り合い、応援してくれる仲間が増えて、そういう力がメダルに結びついたんじゃないかなと思います。
もちろん技術や体力も大切ですが、オリンピックではそういうプラスアルファが重要になってきますので、そういったものが自分の運気に結びついてると思います。
今の(選挙の)手ごたえとしては、自分のベストを尽くして、食堂で食事をするときは(選手に)声をかけています。今回の投票では選挙に行ったかはどうか、IDに星のステッカーを張られてすぐ分かるので行ってない人に声をかけています。またロンドンは雨が降るので、投票にいくと傘をもらえるようになっています。(その効果もあり)前回よりは投票数はすごく多いと思います。
手ごたえは、途中経過は公表されないので不明ですが、明日の2時までは全力を尽くしたいと思います。この会見が終わったらすぐまた戻って選挙活動をしたいと思います。
松本選手 レスリング陣は減量もあって、僕もまだ食堂に1回しか行ってなくて、今日これが終わったら、ほかに投票してない人もしっかり連れて投票にいきたいと思います。
――室伏選手に。今回の日本代表選手団のメダル獲得総数が多いことに関して、その意義をどのように考えているか。
室伏選手 私も選手村に入る前からテレビを見ていてもメダル総数が非常に多くて、一時期はアメリカ、中国に次ぐ順位になっていたこともありますし、これはすごいことだなと。これはJOCも含めて「いかにしてメダルを取るか」とプランを立てて、その効果が出てきたのではないかと思います。ナショナルトレーニングセンターも含めて、選手がより競技がしやすい環境というものができていますので、次のリオも、そして東京という流れになるといいと思うのですが、かなり可能性が出てくると思います。
またドーピングの検査もかなり厳しくなってくると思います。不正もしにくくなってくる環境の中、日本の選手もさらに活躍を広げていく可能性もあると思いますし、私も楽しみにしています。
――室伏選手に。今後のスケジュールなどで考えていることがあれば教えてください。
室伏選手 今はオリンピックに向けてすべて集中して心身ともに疲労してますので、十分に疲れをとって、今後どうするかは考えたいと思います。また今は、目先の選挙で頭がいっぱいで、それに集中しています。
ただ、投てき競技でディーン(元気)君も出てきていますが、もっと日本の若いアスリートでメダルが取れるような選手が出てきてくれないといけないと思います。自分のこともありますが、私はなすべきことはだいぶやってきていますので、早く若い世代が伸びてくるように、私も力になれればいいなと思っています。
――以前から研究論文などを出されていますが、何か新たに次の世代に残そうと思っていることはありますか?
室伏選手 もちろん研究活動は続けていきますし、いかにしてアスリートの個性を伸ばしていくか、また最大のパフォーマンスを出していけるか、これは自分自身で経験したことも含めて私のテーマでもあります。また、オリンピック代表になれそうなタレントがあったとしても、けがをしてしまって棒に振った人がたくさんいるはずで、そういう人材をけがをさせないで開花させてあげる必要もあります。目先のことだけではなくて、長い競技人生でスポーツを楽しめるように力になりたいです。
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